第102話 訪問の目的

「たのもーっ!」


 慎と食事を楽しんでいると、そんな声が聞こえてくる。

 談話室はギルドビルの二階にあるわけだが、一回の受付に誰もいない時は、二階にあるインターフォンに声が届くようになっているのだ。

 つまりは来客なのだが……。


「……一体誰……って、紬か! それに美柑さんも」


「今日は二人ともどうされたんですか?」


 俺と慎が受付に降りて行くと、そこには見慣れた二人の女性の姿があった。

 言わずと知れた《精霊の仮宿》のギルドリーダーと副リーダーである。


「ちょっと雹菜に話があってね。っていうか、このギルドなら全員でもいいけど」


 紬がそう言った。


「話? じゃあ、雹菜呼んでくるよ。今、執務室で書類と戦ってるはずだから」


「忙しいなら別に出直すわよ。いや、でもこれは結構早めに話しておきたい事なのよね……」


 珍しく気が急いている雰囲気で、俺と慎は顔を見合わせる。

 それに……。


「気になっていたんですけど、そっちの子は……新しいメンバーですか?」


 慎が好奇心を抑えられなくなって尋ねた。

 そこにはフードを被った少女と思しき人物が一人いて、紬と美柑の後ろに隠れてこちらを伺っている。


「うーん、まぁ、そんなところかしら。この子も関わる話だから、紹介も併せてしたくてね」


「そうなんですか……まぁ、雹菜さんは別に今やってるのは急を要するようなことじゃなかったし、創、呼んでこいよ。俺は二人を応接室まで案内しておくから。紬さんはカフェモカで、依城さんはブラックコーヒーでよかったですよね? そっちの子は……」


「私、ジュースがいい……」


「オッケー。オレンジジュースでいい?」


「うん……」


 と、言いながら二階へと登っていく。

 二人はともかく、フード姿の少女については初対面だろうに速攻で仲良くなるあたり、慎の高いコミュ力を感じる。

 俺も別に人見知りというわけではないが、流石に慎には敵わないな……。


「おっと、雹菜呼んでこないと」


 俺も執務室に急いだ。


 *****


「……それで? 急な話ってことだったけど……」


 雹菜を連れて応接室に。

 そこには既に三人と慎が座っていて、和やかに会話していた。

 そこに俺たちが加わる格好になり、雹菜は座るとあいさつもそこそこに本題に入った。

 せっかち、というわけではなく、紬たちが早く話したそうな雰囲気だったからだ。

 慎も視線で俺たちにそう伝えていたので、雹菜はすぐにそうしたのだ。


「……驚かないで聞いて欲しいの。というか私も最初死ぬほど驚いたっていうか、何なら未だに驚いてるっていうか……」


 紬にしては珍しくしどろもどろな様子に、雹菜が首を傾げる。

 いつも堂々と自己主張するタイプなので、意外に見えたのは俺も同じだった。

 

「なんだか怖いわね。そんなに大変なことなの?」


「……大変というか、なんというか……」


 モゴモゴとし続ける紬に、ついに痺れを切らしたのか美柑さんが、


「……紬。切り出し方を考えるよりも先に、まずは見てもらった方が、早いのではありませんか?」


「私はいいのだけど……大丈夫?」


 と、紬はなぜか、未だにフードを被ったままの少女に尋ねた。

 オレンジジュースを美味しそうに飲んでいる様子は、十歳くらいの可愛らしい女の子にしか見えないが……。

 何かあるのだろうか?

 注目が集まったからか、少女は少しびくり、とするも、紬の質問のゆっくりと頷いて、


「……うん。大丈夫……紬がいるから」


 と、紬の服の裾をぎゅっと掴んでいった。

 

「この人たちはみんな、信用できる人たちだから、心配しなくても大丈夫。じゃあ……恥ずかしいかもしれないけど、フードを取ってもらえる?」


「うん……」


 そう言ったあと、ふぁさり、とそのフードを取った少女。

 それを見て紬と美柑さん以外の、部屋の中にいる人間……俺と慎、それに雹菜はあんぐりと口を開けた。

 それから、雹菜が最初に正気を取り戻して、つぶやく。


「そ、そそそ、その耳って……本物!?」


 そう、少女の頭の上には、まるで動物のような耳が一対、くっついていて、ぴこぴこと動いていたのだった。

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