第356話 期待

「ああいうところ、今でも変わらないもんね、創は……」


 美佳が感慨深げにそう言った。


「そうなんだよなぁ……困ったことに。まぁそれがまたいいところでもあるんだけど」


「少なくとも変わってほしい部分じゃないね。となると、私たちが頑張って強くなって食らいついていくしかないよ」


「どこまで行けるか……まずはB級か。創が試験受け始めたら俺たちのところまですぐだからな。幸い、数ヶ月分のブランクが創にはあるから多少の余裕が俺たちにもあるけど、本当に多少でしかない」


「まともに戦っても正直、二人がかりでも、勝てないかも知れないくらいになってるよね、創」


「色々身につけてきたっぽいからな。特に補助系はその力をまだしっかりとは見せてもらってない。ただそれを使われると……本当に勝てなさそうだからな」


 とは言っても、簡単には見せてもらった。

 ただ、それはかなり手加減したものというか、弱めにかけているのが分かった。

 本人曰く、自分自身に全力でかけることが、今の創には難しいようで、今のところそれが限界だ、という話だったが、いずれは普通に全力でかけられるようになるだろう。

 他人にかける場合は全力でもいける、という話だったが、それを普通の場所で試すのは怖い、ということだったのでそちらは見せてもらってなかった。

 今度、俺たちにもかけてもらえるようには頼んでいるから、その時に真価がわかるはずだ。

 ついでに言うと、俺はともかく、美佳の方は補助魔術をかけてもらうことで、スキルの中級、ないし上級の《補助術》を得られないかと期待しているというのもあった。

 スキルについて、創は何をやっても身につけられなかったから、もはやその条件とかそういうものについて全くの無頓着になっているが、本来スキルは、何らかの経験や、その蓄積、繰り返しや珍しい状況などによって、後天的に身につけることが可能なものだ。

 世に知られているスキル条件は数多くあるが、それ以外にも全く知られていないスキルは星の数ほどもあると言われ、実際、毎日のように新しいスキルが見つかっている。

 ただ、新しいスキルはそれを見つけた者やその身内で囲い込む傾向が強いため、そうそう広まると言う者でもないが。

 しかし時間が経過するにつれ、徐々に取得者が増えて知られていくものだ。 

 《補助術》スキルはそんなスキルの中でも珍しい、レア、と言われるもので、滅多に身につけることが出来ないものだ。

 それでも美佳は下級の《補助術》を少し使えているが、それ以上には中々出来ていない。

 これは、誰かが取得条件や成長のさせ方を秘匿していると言うわけではなく、明確な条件が分かっていない方になる。

 《補助術》を頻繁にかけられることが重要とか、かけられた状態で戦うことが大事とか、そんなことは言われているが、それでも確実に身につけられるというわけでもないようだ。

 そもそも、《補助術》をかけられる、と言うこと自体珍しいことになるため、検証もそれほど進んでいないと言うのも大きい。

 そこのところ、創の補助魔術は、補助術とは正確には違うものかもしれないが、同じような経験としてフィードバックされて、美佳に《補助術》スキルが強化されないか、と俺たちは考えているわけだ。

 そこのところについては創にももちろん相談しているから、色々試してもらうつもりでもあった。

 創の力をうまく利用しているようで何か悪いものを感じなくもないが、結局俺たちの目的は、創をいざという時に守ること、止めること、その命を留めることだ。

 だから……。

 まぁ、それを置いておいても、ギルドメンバーが強くなることはお互いにとっていいことだろう。

 ギルドを大きくすると言うのは俺たち共通の目標でもあるしな。


「ま、ともあれ頑張るか……そうだ、高校の実技実習、来週だっけ。結局、創と雹菜さんだけになっちゃったけど」


「私たちも行きたかったけど、依頼入っちゃったからね。どっち優先かって言われると。そもそも、雹菜が行く時点で私たちの代わりなんて簡単に果たせちゃうからいいだろうけどね」


「それもまた寂しい話だが……」


「でも今回、評判良かったらまた依頼してくれるだろうし、次もあるんじゃないかな。そうなったらその時行こうよ」


「そうだな」


 そして、俺たちは家に戻る。

 明日からはまた、依頼の日々だ。

 ギルドのためにも、創のためにも、今まで以上に頑張らなければ。

 そう深く思ったのだった。

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