第547話 変動

「……マジか。そんなことが……」


 街中のカフェで俺と雹菜の話を聴きながら深刻な表情をしているのは賀東さんだ。

 もう一人、相良さんもいて、同じように考え込んでいる。

 俺たちの伝えた話はそれだけの衝撃を二人に与えたということだな。

 とはいえ、だからと言って怯えて何もしなくなるみたいなことはA級冒険者であるこの二人にはあり得ない。

 冒険者をやってきて、同じような危機など数えきれないくらいに遭遇していたはずだからだ。

 事実、賀東さんは言った。


「そういうことなら、サブイベント関係を受けるときにはその内容に気をつけた方がよさそうだな。特に《虫の魔物》関連のものは、注意した方がいいだろう。編成を考えるとか、もしもの時にはすぐに誰か駆けつけられるように連絡を密にしておく、とかな」


 続けて相良さんも、


「それだけでなく、例え《虫の魔物》に言及がないものでも、街の外に出るようなタイプのサブイベントは気をつけた方がいいでしょうね。今回だって、お二人に当初されていた依頼がいつの間にか変化してそうなってしまったようですし」


 そう言った。


「確かにな。しかしイベントがそこまで変化するとは……一応、街中で完結する依頼でも、大きく変化するタイプは見つけたんだけどな。そういう危険があるものはまだなかったから油断してたぜ」


 賀東さんの言葉に雹菜はくなが、


「そうなの? どういうイベントかしら?」


「あぁ。俺は今、蜥蜴人族だろ? だからいい防具がなかなか見つからなくてよ。でもここならあるだろうと思って色々吟味してたら話しかけてきたおっさんがいてな。で、そいつが鍛治師だって話から始まって……」


 確かに、今の賀東さんの防具を探すのはなかなか難しそうだな。

 尻尾が生えているし、体型も人間とはかなり異なる。

 オーダーメイドで作るしかなく、おそらくはギルドの人間に頼んで作ってもらったものを身につけているのだろう。

 あと、最近だと迷宮で見つかる武具の類に、明らかに人間用ではないものが出てくるようになっている。

 そういうものを探すという方法もあるが、やはり数がそれほど多くないし、性能の面でも微妙だったりして難しいのだ。

 そこのところをここでなら解決できるかもしれない、と考えるのは当然の話だった。

 それで、賀東さんの話の続きだが……。


「そのあとはどうなったんです?」


 俺が続きを促すと、賀東さんは頷いて言う。


「あぁ。そのおっさんは理想の防具を作りたいと言ってな。だがそのためには素材が足りないという。どこかに素材を探してくれる奴がいたらありがたいんだが、と言って俺の方を見て、そこでサブイベントが発生した。その時は、《防具素材を探せ》ってイベントで、指示は防具素材を見つけておっさんに納入すること、だったんだが、それを終わらせるとこれだと実は胸当てしか作れない、と始まってな。そこからは、脛当てとかガントレットとかの素材を探せって続いていって……」


 なるほど、そうやって変化していくものもあるのか。

 しかしこれはイベントが変わった、というより一つ片付けたら次のイベントに繋がって、みたいな感じだな。

 俺たちのは急に別なのが差し込まれた感じなので、また別なのかもしれない。

 そういうと、賀東さんは、


「確かにそうかもな。まぁイベントにもいろんな形で変動があるってことなんだろうな」


 そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る