第314話 魔境の様子

「……じゃあ、まずは俺が第一次と第二次北海道魔境調査で何を見たか話してやるぜ」


 そう言って、賀東さんは語り始めた。


 *****


 もう四ヶ月くらい前になるんだな。

 そう考えると結構日が経ったように感じるが……記憶は鮮明だぜ。

 北海道に行くには、今は二つの方法があることは知っているな。

 一つは船、もう一つは青函トンネルルートだ。

 ただ後者に関しては今はほぼ無理だな。

 何せ、あそこは迷宮化しちまってる上、冒険者がほぼ入れなかったから魔物が溢れ出しちまってる。

 つまりあそこも魔境化してるわけだ。

 それでも、迷宮化した場所は普通の空間より頑丈になるからな。

 トンネル自体は人の手が全く入ってない状況でも生きてる。

 いつかあそこの魔物どもを滅ぼしてルートを確立したいもんだが……先に函館の方を奪還する方が先だろうな。

 

 で、俺たちは船に乗って向かった。

 函館周辺の海はもちろん、魔物がうようよしてるから、普通の船じゃ強度的に無理だ。 

 だから、日本海軍の船に乗せてもらってな。

 函館にある軍港も海軍のものだとは知ってるよな。

 まぁ、魔境に港なんて持てるのはその武力有っての事って訳だ。

 魔物には巡航ミサイルだとかそういう大規模な兵器はなぜか全く利かないが、銃とかはちゃんと効くからな。

 スキルにも《銃術》とかあるし……そういうの持ってる奴らは、軍に入るのが多いから、そういう戦い方をする奴らは結構軍にいて、拠点防衛には向いてるんだよな。

 ただ、強力な魔物になるとそれこそマシンガンとかをそれなりの時間ぶち込まないと死なないこっともざらだから、限界があるがよ。

 

 船旅なんだが、まぁそこそこ快適だったな。

 軍の船だからもっと過ごしにくいかと思ってたが、高位冒険者を乗せてくことも多いんだろうな。

 かなり気を遣ってもらえたよ。

 だが、うちの下っぱのやつらの扱いはそこまでじゃなかったみたいだったが。

 それはいいか。

 

 で、徐々に函館に近づいてく中で、俺は甲板に出て、函館港を遠くから観察してた。

 俺は冒険者としてそこそこ鍛えたおかげで、色んなスキルを覚えてる。

 だからその気になりゃ視力は望遠鏡みたいになってるからな。

 十分に見えたよ。


「……総長。いかがですか」


 そのとき、俺の隣でそう尋ねてきたのは、第一次北海道魔境調査に連れてきたメンバーの一人で、副長でもある世良恵せらめぐみだった。

 こいつは二十代半ばにしてすでにB級になってる優秀な奴でな……。

 あと度胸があった。 

 魔境なんて未知に場所に行くんだ。

 実力はもちろんのこと、怯えない度胸がどうしても必要だった。

 他国での魔境調査の報告なんか見てると、失敗する理由のうち大きなものは、未知に出会ったときにパニックになっちまうことだってのが分かってたからな。

 そういう時に冷静に動ける奴は貴重だ。

 そう思っての選抜だった。

 まぁ、それはこいつだけじゃなくて、第一次に連れてった奴全員に共通するけどな。

 他のギルドから参加した奴らもいたが……そっちについては俺が責任を持つところじゃなかったから、どうだったのかは分からない。

 腕は悪くなさそうだったが……。

 ともあれ、俺は函館を観察して、あぁ、と思ったんだ。


「何が見えると思う?」


「……魔物に支配される街並み、でしょうか?」


「そうだな……それで正解……なんだが」


 頷きながら、その一言で表せる場所ではなさそうだな、と思った。

 まず、魔物達が闊歩してる姿が遠目からも見えたんだが、ビルの間に巨大な蜘蛛の巣みたいなのが張ってるところとか、建物くらいの巨人が立っているところも見えた。

 空を見れば明らかに飛行機みたいなでかさの奴も飛んでるし、海を見れば馬鹿みたいにでかい蛇みたいなのも泳いでてな……。

 こりゃ、だめかもしれねぇと一瞬だが、思っちまったよ。

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