第313話 相談
「じゃあ早速、景品を進呈……と行きたいところだが、まずその前に相談良いか?」
賀東さんがそう言ったので、雹菜が頷いて答える。
「ええ、構わないわ……って言ってもあれの話よね?」
「……やっぱり既に伝わってるか……。どこかから漏れたんだ? 一応、機密というか、知る者はごく少数のはずなんだがな」
「うちには色々な伝手があるからね」
「まぁ、そう言われればそうか。お前の姉貴は《白王の静森》の雪乃だし、あぁ、そこの奴は星宮のとこの坊ちゃんだったな」
樹に視線を向けてそう言ったので、これには樹が少し驚く。
「ご存じだったのですか?」
星宮家の人間はほとんど表に顔を出さないと言っていたし、後継者とされているといっても、今は何も責任有る地位にはついていない樹だ。
顔を知られているとは考えにくかったのだろう。
これに賀東さんは言う。
「知らなかったが、《無色の団》については改めて今回調べ直したんだよ。そのときにちょっと引っかかったから、さらに調べたら分かったってだけだ。雹菜がワンマンでやってるように見せかけて、その実、全員が中々癖のあるギルドだよな、お前ら」
「なるほど……」
樹が納得するように頷いたあと、雹菜が、
「まぁ、その辺はいいじゃない」
と話を逸らすように口にする。
賀東さんはこれに笑って、
「探られたくないものが他にもある、か? 星宮以上に……それってなんなんだか気になるが……まぁいいか。いつか教えてくれよ」
と言う。
「しらばっくれるのがいいんでしょうけど、無駄そうだから言っておくわ。そのうちね」
「まったく、いっぱしのギルドリーダーになりやがって……大分話がそれたな。そうそう、一応の答え合わせだが、言ってみろよ。俺が何の相談をするって?」
「……第三次北海道魔境調査」
「やっぱり分かってるじゃねぇか。そういうことだな……第一次と第二次の詳細は?」
「大雑把には聞いてるけど……その辺に関してはガードが堅いのか、それほどは」
「そうか……なら、実際に調査隊を率いてた俺から説明してやるよ。その方が、俺の相談も理解しやすくなるだろう。ただ、目標については先に言っておくぜ」
「目標? 北海道魔境について調査することそのものじゃないの?」
「もちろん、それもある。だが、第三次はそれだけじゃない。人間の領域をある程度奪い返すことが目標なんだよ」
「それって……」
「函館奪還。これが第三次の目標だ。それを念頭に置いて話を聞いてくれ」
これには、みんな息をのむ。
それがどれだけ高い目標なのか、誰もが分かっているからだ。
ただ、出来れば北海道という広大な地域全てを取り返すための橋頭堡となるのは言うまでもない。
しかしそんなことが出来るのか……。
実際、かつて函館まで前線を下げた人類は、守り切ることも出来ず、軍港だけをなんとか数々の魔導具や高位冒険者を多数投入することで維持しているに過ぎない。
それが今までの限界だったのだ。
それなのに、急に反転攻勢へ出よう、と言われてもとてもではないが現実的なこととは思われない、というのが実感だった。
「……確かに、第三次は今までとは比較にならないほどの冒険者を投入するつもりとは聞いているけど……本当に出来ると思っているの?」
「もちろん、断言はできねぇさ。それはなんだってそうだろう?」
「一般論に逃げないでよ」
「そんなつもりじゃねぇが……なんだ、手厳しいな」
「それに私たちも参加しろというなら、私にはギルドのメンバーを守る義務があるもの。生半可な希望では参加を決められるわけがないからね」
「そりゃ、そうだ……じゃあ、お前を納得させられるかどうかが俺の勝負か……これは大変だな……」
「ほら、頑張ってみて」
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