第154話 試験終了
「……これで最後だな?」
「はい、全員の帰還、及び救出を確認できています」
「よし、ご苦労。では……」
そんな声が、迷宮入り口前の広場で聞こえてくる。
入口のゲートでそんな会話をしていたのは、試験責任者の加藤と、その補佐の試験官だった。
俺たち受験者は、その声を聞き、やっとか、と立ち上がる。
というのも、受験者は、その全員の安否の確認を待たされていたからだ。
あとは大した伝達内容もないだろうに、無駄な時間だと思ってしまうが、試験というのはそういうところが結構あるよな……。
まぁ、そうは言っても、必ずしも何時間も待つことを求められるというわけではなく、おおむね毎年このくらいの時間には終わる、という目安があって、その時間までに広場に集まっているようにと言われただけなのが救いか。
実際、俺たちが迷宮を脱出したあと、数時間しか経過していない。
これくらいで終わったのは、これだけの時間があれば、三層ボス部屋まで到達するか、もしくは全滅に近い状態になるかのどちらかに完全に分かれるからだ。
これだけの時間生き残ってなお、三層にたどり着けないような者たちについては魔力や体力切れで失格扱いを宣告されてる。
「聞いての通り、受験者全員の無事が確認された! 一人も重傷者も、死亡者が出ていないことは、珍しいことだ。今年は豊作かもしれないな……。トラブルもいくつか聞いてはいるが、大過なく終えられたことを喜ばしく思う! では、試験結果については後に通知する! 解散!」
あまりにも簡素な通達に、俺たちは呆れて、
「こんなんならさっさと帰らせてくれても良かったろ……」
「全くだぜ……」
俺の言葉に、カズも深く頷く。
そこに樹が、
「いやでも、なんか大怪我した人とか出なかったって聞けば、安心して今日は眠れそうじゃない?」
と言ってきたので、巧が、
「それは確かにそうかもな。しかし、そういう人間が出なかったってのは意外だ……ま、今日はさっさと帰って、寝るとするか……疲れたぜ……」
と言った。
彼のいう通りだ。
正直、俺は肉体的な疲労は大したことないが、試験を受けているという重圧で精神的な疲労はそれなりにある。
泥のように眠りたい、というのが実際のところだった。
「じゃ、今日はさっさと帰るか……あぁ、今度打ち上げでもしようか? せっかくパーティー組んだのに、これっきりってのも寂しいし」
俺がそう言うと、みんな頷いてメッセのIDを交換しあう。
そしてそのまま分かれて、帰宅して行った。
*****
「……本当に僥倖でしたね。あれだけのイレギュラーがあって、死亡者重傷者ゼロとは」
受験者たちが試験会場を去っていく中、それを見つめつつ試験官が責任者である加藤に呟いた。
「あれは意外だったな。確か……そうそう、天沢とかいうやつのパーティーだったな。揉めてるやつと組んでた変わり者か」
「私としてはそっちの方も意外でした。監視していた者によれば、かなりうまく連携の取れた戦いを見せていたようですよ。最初に突っかかっていた方も、むしろ献身的に重戦士としての役割を果たしていたと」
「あの二人の方は、ここ数年、何度も試験で見たな……受からずに腐りつつあったが、いい出会いがあったってとこか。これだから駆け出しの奴らの様子を見るのは面白い。あいつらはいずれ化けるだろうな。かなり劣化したドラゴンゾンビとは言え、F級なんかがまともに相手できる存在じゃねぇ」
「それなのですが、あれはどうして……」
「出現したのか、か?」
「はい……いえ、もちろん迷宮の常として、こういったこともありうると言うことはわかっていますが……」
「偶然の可能性もあるだろうが……」
「だろうが……?」
首を傾げた試験官だったが、加藤はゆるゆると首を横に振って、
「いや、偶然だろう。そういうこともある……多分な」
そうとだけ、言ったのだった。
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