第155話 打ち上げ
「というわけで、E 級昇格試験、合格おめでとう!」
パァン、とクラッカーの音が鳴り響き、くす玉が開いてそこには《天沢創くん、E級昇格おめでとう!》と書いてある。
場所はギルドビルの会議室で、メンバーは相変わらずのギルドメンバーたちだ。
それに加えて、なぜかカズと巧、それから樹もいる。
カズと巧、それに樹も俺と一緒にあのドラゴンゾンビに挑んだわけで、そのことも成績に加算された結果、同じく合格している。
ただ、カズと巧は所属しているギルドから結局クビになってしまった。
理由は、俺と樹と揉めたことがギルドの耳に入ったらしく、恥晒しだと言われて戻った直後のクビ宣告だったらしい。
俺と樹は一応、その後、事情を説明したし特に問題にする気はないと言ったのだが、それでも撤回する気はないと言われて終わった。
意気消沈する二人に、だったら、ということで選択肢を与えてくれたのは
特段、俺と樹が問題にするつもりはないとはいえ、あの場での揉め事や態度をそれなりの人数に見られていたことは確かで、カズと巧の評判は悪くなってしまっているのは事実だ。
それをギルドに入れる、ということはギルド自体の評判も下げる可能性は十分にあったが、雹菜は、
「うちのギルドは評判でするタイプの仕事が正直少ないから、問題ないわ。それに……これから先、心を入れ替えてやれるのなら……そういう悪評もすぐに消えるわよ。何せ、そもそも冒険者自体の評判が世の中的に良くないんだからね」
ウインクしながら言ったそれは確かに事実ではあった。
素行の悪い冒険者というのはかなりの数、いるのは間違いなく、その中の一人や二人のことなどそこまで強く印象には残らない。
これから先、真面目にやっていけばすぐに悪評は払拭されるだろうというのも、過去に少しくらい荒れてた程度の人間であっても依頼をしっかりこなせるなら重宝されることから、事実だった。
雹菜の温情に二人は痛く感謝し、今はうちのギルドメンバーとして実直に仕事をこなしている。
合格発表されたのは昨日なので、それまではF級の中でも比較的敬遠されるような仕事ばかりだったが、それでも腐ることなくこなしていることから、今の時点で既に二人ともそれなりに信頼を取り戻していた。
うちのギルド自体も、大して評判は下がっていない。
元々、やっかみじみた文句がネットの掲示板に書かれたりはしていたが、そんなものは実績の前にはすぐに流されるものだ。
そのため、ギルドの運営も非常にうまく行っているのだった。
「それにしても樹はいいのか?」
乾杯の後、色々と感謝の言葉をみんなに述べてからは談笑タイムと化している会場の中、俺は樹に尋ねた。
実のところ、彼……いや、彼女?いまだにどっちだか分からないが、樹もまた、うちのギルドに入ったからだ。
元々の所属である《光の伽藍》との関係など考えると大丈夫なのか、という気がするが……。
「大丈夫だよ。僕は元々、居候に近いような立場だったからね……ただ、妹がちょっと心配だけど」
「あぁ、そういや、妹が所属してるって言ってたな」
これはつい最近聞いたことだ。
樹は秘密主義というわけではないが、あまり家族の話などしないタイプで、その家族構成についてはつい最近教えてもらった。
俺としても、冒険者の常として、その辺は深く突っ込んでは聞いてこなかったが、ギルドに所属するにあたって最低限は、ということで皆んなに話してくれたのだ。
その中に、樹が《光の伽藍》に所属していたのは、自分が治癒術師であることに加えて、妹もそうだから、というのがあった。
むしろ、自分は構わないが、妹のためにと思って所属していた面があり、だからこそ、居候、という表現を使ったらしい。
「うん……本当なら、妹も一緒にこっちに連れてこようと思ってたんだけど、あの子はあっちの方がだいぶ居心地が良くなってるらしくてね。僕としてももう心配はいらないかなと思って、それでさ」
「なるほどな……ま、なんにせよこれからよろしくな樹」
「うん」
「おい、俺と巧も忘れるなよ!?」
カズが少し酔っ払いながら、少し離れた位置からそんなことを言ってきたので、俺と樹は、
「分かってるから心配するなよ!」
「よろしくー!」
と言ったのだった。
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