第438話 エルフへ

「……おぉ、これは……」


 三人が、人類以外の種族を選択すると、ジャドの時と同じように光に包まれた。

 そして、その光が収まると、そこには先ほどまでと同じ人物ながら、色々と雰囲気の変わった三人が立っていた。


「……これで、エルフになれた、ということでいいかしら?」


 雹菜がそう呟く。

 いつもの彼女の美しい顔立ちはそのままだが、耳が丸いものから、尖った長いものに変わっている。

 目の色もどことなく緑がかっており、肌のきめ細かさもいつもとは違うように思えた。

 人類ではない、と言われても納得がいく雰囲気というか。


「わぁ、雹菜、すごく可愛くなってる! 肌も綺麗! 髪も綺麗! いつも綺麗なんだけど……さらに?」


 黒田さんが雹菜を見てそう言った。

 しかし、そう言っている黒田さんもだいぶ美しくなっている。

 雹菜は冒険者然とした格好をしているので、エルフと言われて頭に思い浮かべるイメージと大幅なズレはないが、黒田さんはそれとは違ってロリータ服に身を包んでいるから、なんだか違和感がすごい。

 新しい扉が開かれたような……妙な感覚がする。

 もちろん、彼女もまた美しくなっている。

 エルフになると、何割増しかで綺麗になるのか?

 だとすれば、多くの女性が《ステータスプレート》を連打するのでは……いや、誰でもなれるとはまだ決まってはいないのか。

 ここにいるメンバーみんなに表示されてはいるが、この三人が何か条件をすでに満たしているだけ、なのかもしれない。

 それを外に出てから調べるべきだな、と心に留める。


「どうやら、魔力がだいぶ上がっているようですね。比較して、腕力は減っているみたいです。ただ、敏捷性や精神力、器用は上がっていますから……種族の特性、というものなのでしょうね」


 静さんが冷静にそう言った。

 鑑定で見たのだろう。

 

「ええと、どれどれ……あっ、ステータスも驚いたけど、《精霊術》がスキルにプラスされてるわよ。エルフってイメージ通りね……」


 雹菜が《ステータスプレート》を開いて、そう言う。

 《精霊術》か。

 《精霊の仮宿》の連中が身につけている術の一種だな。

 やはり、通常の術や、魔術とは別なのだろうが……。


「そのためでしょうか、精霊力の項目が増えていますね」


 精霊術を使うための力は、通常の術とは別と言われる。

 これは根拠がしっかりある話で、精霊術スキルを持っている者のステータスには、はっきりと精霊力、という項目があるのだ。

 それが、エルフになることで生える……?

 

「ちなみに、精霊術を使えるのか? 三人とも」


 俺が尋ねてみると、黒田さんが、


「うーん、多分使える、と思う。そんなに大きなことはできないと思うけど」


「どうしてそう感じるんだ?」


「二人はどうかわからないけど、なんだか宙に浮いてる不思議な光が見えるんだよね……これが精霊だな、ってなんとなく感じるの」


 精霊……それは残念ながら俺には見えないようだ。

 けれど、雹菜と静さんは黒田さんの言葉に頷いて、


「私にも見えるわ。これを使役……いえ、お願いするような形で行使できるのが、精霊術スキルみたいね」


「私にも見えます……色によって属性が違うようですね。赤いものは、火、青いものは水、のように。適切な精霊にお願いすれば、適切な精霊術が使えるということでしょうか……試してみますか?」


 静さんがそう言ったので、雹菜が言う。


「そうね。あまり大規模なものでなければ、やってみてもいいでしょう。特に、水属性であれば周囲に被害が、ってこともないでしょうし。まぁもしもの時を考えて、《お願い》するときに小規模でって加えることにしましょうか」

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