第196話 観戦の様子
『……とっ、止めた!! 新進気鋭とはいえ、未だB級冒険者の位に留まっているはずの白宮雹菜が、A級冒険者の中でも屈指のパワーを持つ賀東修司の一撃を、真正面から、止めた!! これは大変なことだァ!!!』
会場に一瞬の沈黙が広がった後、慌てたような雷豪のそんな解説が響く。
実際、観客たちも、運営も、その場にいる人間の誰もがこの成り行きには驚いているようだった。
……俺たちを除いて。
「分かっちゃいたが、うちのギルドリーダーは本当に化け物だよな……なんで細剣であの大刀を止められるんだ?」
慎が呆れたようにそう呟く。
あれだけのことが出来ることに驚いてはいないまでも、実際に目の当たりにするとやはりすごいものだという感情が湧き出ることは避けがたかったようだ。
それも当然で、通常、冒険者の階級の差は覆し難いと言われている。
特に、A級の実力というものは、それ未満とは隔絶していると誰もが認識しているし、実際にそれだけの実績を残してきた階級だ。
それなのに、B級冒険者が、A級の一撃を普通に受け止めたのだ。
まるで狐に摘まれたような気がして当たり前のことだった。
「雹菜のここ最近の実力の上がり方は物凄いからなぁ……慎や美佳もガンガン強くなってるのに、すぐに追いつかれたらたまらないって」
「俺たちがいつ追いつけるってんだよ。それにそれなら創の方が先だろ」
「ステータスはともかく、やっぱり技術の問題があるからな。そう簡単ではないとは思うけど……」
ステータスは俺の力、魔力を他よりもずっと効率的に摂取できることから上げていく見通しは十分にある。
とはいえ、ある程度まであげたら、弱い魔物から得た魔力だと上がりにくくなることは確認しているのでそこまですぐに、とも言えないが。
器用と精神だけは一切止まる気配はないんだけどな。
どちらも、魔力とかとは関係なさそうなステータスだからだろう。
おそらくそうだろう、と思っていて、その理由は雹菜も俺のような魔力の操作に挑戦していて、魔物を倒さずとも上がっていることから半ば確信を持っている。
慎と美佳も挑戦はしているのだが、難しいらしい。
ある程度の魔力量がないとどうも厳しいようだな。
俺の場合は、それしかやることがなくてそればかりずっとやってたから、例外というものだろう。
いずれはギルドメンバー全員に身につけてほしい技法だが、簡単ではないだろうな。
そんなことを考えていると、雹菜と賀東の戦いは進んでいく。
賀東の大刀を受け止めた雹菜は、賀東に何かを言った後、それを思い切り弾いた。
あそこでの会話は残念ながらここまでは聞こえてこない。
聞き耳系のスキルがあれば別だろうが、魔力が濃密に充満している空間だと精度が落ちるらしいから、B級とA級の魔力のぶつかり合いが行われているあそこでの会話を聞くのは難しそうだな。
こういう時は、意外にアナログな技術の方が役に立ったりする。
いわゆる読唇術とか。
まぁ、でもあそこで会話してる二人はそういうことも考えた上で喋ってそうだな。
唇の動きを読み取っても別の会話とか、意味をなさない言葉にしか思えないように唇を動かしていたりとか。
そんなこと普通は出来なさそうだが、高位冒険者という奴はそういう常識が通じないから……。
雹菜に吹き飛ばされた賀東だが、器用に空中で体勢を変えてステージに降り立つ。
かなりの力で飛ばされたはずなのに、妙な軌道でステージ外に飛ばされることなく降りたので不思議だった。
「……《曲芸》スキルとかかな?」
空中などアクロバティックな動きを自由自在に行えるようになるスキルにそういうものがあったはずだから、それかな、と思ったのだが、静さんが、
「あれはおそらく《地術》でしょうね。上級には重量操作系の術がありますから」
「……あんだけ戦士タイプの動きしてて、術も身につけてるのか。しかも上級を……やっぱりA級は化け物だな」
試合は続いていく。
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