第197話 雹菜の攻撃

「……まぁでも、それはうちのリーダーも同じか」


 俺がそう呟くと同時に、着地した賀東に向かって数十の氷の槍が打ち込まれる。

 

「……《アイシクルレイ》ですね。《上級氷術》の一つの……ですがあの数は……」


 静さんがそう言った。

 万物鑑定を持つだけあって、彼女はスキルそれ自体にも詳しいようだ。

 そもそも、一般的に鑑定系の技能は、鑑定すればそのもの……例えばスキルの名称や効果は分かるが、実際の使い勝手などが細かく分かるわけではない。

 それは人間の工夫の領域の話で、実際に活用する人間の感覚的な問題だからだ。

 例えば、《アイシクルレイ》は十数本の氷の槍を対象に放つスキルだ、とは分かるにしても、今、雹菜がやっているように、魔力の操作によってその本数を大量に増やしたり、威力を増加させるやり方を詳しく分かるわけではないということである。

 雹菜もこれを確立するためには結構大変そうだったが……俺のような、魔力の操作の仕方を模索していく中で見つけたらしい。

 ちなみに初めてあれを打ち込まれたのは俺だった。

 死ぬかと思った。

 まぁ、手加減というか、命中寸前に全て消滅させてくれたので命拾いはしたけれど。


「普通ならあれを喰らえばおしまいなんだけどな……A級じゃ、そうもいかないか」


「みたいですね。賀東は命中しそうなもの全てを叩き落とすつもりのようですよ」


 大刀を構え、そこに強く力をこめている。

 魔力に反応してか、それともあの刀自身の特別な能力か、銀色だった刀身に赤い禍々しい光が立ち込める。

 そして、氷の槍が目の前に迫ったその瞬間、賀東はそれを目にも止まらぬ速さで振るった。

 すると……。


「……全部叩き落とされちまったぜ。どういうことだよ」


 カズが呆れたような声を出す。

 あんなこと、自分には逆立ちしたってできない、とでも言わんばかりだった。

 実際、あれこそがA級のA級たる所以だ。

 全方向から敵が襲いかかってきても、一刀でその全てを叩き潰せる……それだけの力が、彼にはある。


「……《円月破えんげつは》という名のスキルのようですね。しかも、あの刀の所有者のみが使用できる、固有スキルのようです」


 静さんがそう言った。

 もちろん、これは鑑定したのだろう。

 ステータスを上げてることが良い影響を与えているのか、彼女の鑑定能力もかなり上昇している。

 というか、魔力が上がっているから、鑑定出来る時間が増えたようである。

 以前は数回鑑定したら、半日休まなければならないとか、そういう厳しい制限があったようだからな……その代わり、どんなものでも鑑定できるのだが。

 とはいえ、今はそんなこともなく、よほど深く見ない限りは、途切れなく鑑定し続けることができるようになっている。

 

「武器固有スキル……! どこにでもあるようなスキルがついてる武器なら、それなりの迷宮でも得られるけど、あの武器って、賀東さんだけしか持ってないやつだろ。実質、ユニークスキルじゃないか」

 

 俺がそう言うと静さんは頷いて、


「今のところは、そうだと思います。ただ、職業を極めていけば身につく可能性もあるようです……いくつかの職業にその可能性があると、読み取れます」


「そんなことまで分かるのか……ちなみにどんな職業?」


「……はっきりとは。今はまだ、そこのところは空欄になっているように私には見えます。ただ、ああいう表示は他に見たことがありまして、今はまだ存在していない職業の場合にそうなるようなのです」


「存在していない?」


「ええ、《転職の塔》では複数、選べる職業が出ますけど、人によって違うでしょう? かなりバリエーションがあって……で、ある日、新たな職業が出てきたりする」


「あぁ、そこにまだ誰も出したことがない職業ってことか?」


「そういうことですね。かなり強力なスキルなようですから、おそらく、《転職の塔》をもう少し攻略しないと出ない職業なんじゃないですかね」


「なるほどな……」

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