第393話 妹と迷宮探索 2

「あんまり我が儘言うなよ。連れてかないぞ」


 俺がそう言うと、佳織は慌てて、


「あぁ、ごめんごめん! 冗談だって!」


 と言ってくる。

 うーん、本当に素直だな。

 

「まぁ、気持ちは分かるけど、学生の時から無茶してもいいことないからなぁ」


「それって実体験?」


 佳織が鋭く聞いてきたので俺は頷く。


「あぁ、知ってるだろ。スキルが一つも身につかなくて、就職に苦労したってさ」


「もちろん。あのときはなんだかんだ心配してたから」


「そうなのか? 家族は割と適当だった記憶があるが」


「考えてもみてよ。就職決まらない長男がとぼとぼ家に帰ってきて、まだ決まってないの!? とか言えると思う?」


「……言われてみれば。なるほど、気を遣われてたのか……」


「というか、家くらいは居心地良い場所でいてほしかったんだよ、みんな」


「ありがたい話だ。ま、しっかり冒険者として働けてる今となっては、笑い話に出来るけどな」


「まぁね」


「話がずれたが、無茶は良くない。失敗ばかりするようなマインドになってくるからな……。ただ、第三階層までこの《雑魚の迷宮》を潜るだけってのも詰まらないだろうからな。目標をなんか設定するか」

 

 実際に冒険者になったら、その目標は依頼主がくれる。

 ギルドだと取引先とも言うが。

 あの素材を定期的に納入してくれとか、あの迷宮にあるらしいあれを見つけてきてくれとか、そんな風にな。

 けれど、フリーの冒険者にはあまりそういうものはない。

 だから単純に高価なものを探し求めるとか、後はそこそこの価値のあるものを延々と流れ作業の如く採取し続けて、一日の終わりに冒険者協会で換金する、なんていうやり方もある。

 どっちが良いかと言えば、なんとも言えないところで、前者は一攫千金要素はあるが、その日の稼ぎはほぼゼロで終わる、なんてこともありうる。

 後者は大した金額を稼げないが、それでも確実性はある。 

 まぁ、実際のフリー冒険者は、この両方を、どちらかに少し比重を置く感じてやることが多いが。

 ちょろちょろ手堅い素材を収集しつつ、運良く儲かる何かを探すって感じだな。

 俺たちの場合も、まさにこのようなやり方になるが、それだとだらだら潜るだけになってしまうし。


「目標かぁ……。何か凄い魔道具をゲットするとかは!?」


 佳織が良いことを思いついた風にそんなことを言うも、俺は呆れて、


「……《雑魚の迷宮》の第三階層程度までで、そんなもの期待するなよ……」


 そう言わざるを得なかった。

 まぁ、絶対に見つからないとまでは言えない。

 たまに、信じられないほど浅い層で、もの凄くレアな魔道具が見つかった、なんてこともあるからだ。

 そういう場合は、宝くじが当たった人のようにインタビューされてニュースになってたりする。

 ただ、そんなのは本当に宝くじレベルであって、万が一にも期待できることではない。

 だから俺は呆れたのだ。


「なによ、夢見たって良いじゃない」


「悪いことはないけど……俺が言ってる目標は達成できる可能性がそれなりにあるものだっての」


「……なるほど。じゃあ……私が、第三層までの魔物を、一対一で倒せるようになる、とかは?」


 今度は比較的まともな提案だった。

 ただ……。


「お前、本物の魔物と戦ったことないだろ? それでやれるのか?」


 冒険者高校に通いながら、冒険者になる道を諦めて退学する者は毎年それなりに出る。

 なぜかと言えば、本物の魔物を前にして、自分は戦えないと気づいてしまうからだ。

 学校ではほとんど本物に出会うことはないが、たまに実習で低級な魔物を、厳重なセキュリティーで閉じ込めながら、見学させたり、戦わせてみたりすることがある。

 高校だと一年後半か、二年初めくらいからが最初になるが……。

 そして、そこで本物とは無理だ、と理解してしまうわけだ。

 佳織もそうなる可能性はある。

 けれど、彼女はそんな俺の心配など知らずに、


「大丈夫よ!」


 と言い切る。

 本当かなぁ……とは思ったものの、実際目の前にしてみないとこればかりは分からないため、


「……分かった。だけど覚悟しておけよ。無理そうならやめていいから」


 そう言うしかなかった。

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