第222話 貨幣価値

「……本当に盛況だな。まだ精霊祭まで一週間もあるっていうのに、すでに祭りって感じだ」


 領都ファンベルグに入ると、エリザたちが言っていたように、そこここに出店が出店されているのが見える。

 合間には通常の露店と思しき店も存在してはいるのだが、祭り用なのか普段からやっている店なのかの区別が難しいくらいに数がある。

 また、露店などではない通常の店も飾り付けなどがなされていて、祭り仕様と言った感じだ。

 本当に街を上げての大きな祭りなのだなと理解させられる。


「村の祭りなんかとは規模が違いますからね。本番になれば多くの人がファンベルグに押しかけてきて、こんなもんじゃすみませんよ」


 ミリアがそう言った。


「人でごった返す感じか?」


「そうそう、そうなんですよ。だから精霊祭のメインイベント、《精霊石への奉納》を近くで見たいならチケットを取る必要がありますね……まだ売ってるかなぁ」


 《精霊石への奉納》とは、精霊石に魔力を注ぐイベントのことをそう言うらしい。

 日本で言うなら、お神酒とかそう言うのを捧げるのと同じ感じだろうな。

 素朴で分かりやすいといえば分かりやすいが、そういえばこの世界の宗教ってどうなってるんだろ。

 地理や歴史ばかりグラズ村長には尋ねていて、文化面に関しては精霊祭しかり、ほとんど聞けていない。

 まぁ、それが生命線だから、と言うのもあるが、文化についてはどこが地雷なのか分からないからちょっと聞くのが怖いのもあるんだよな……。

 この世界に神はいるんでしょうか?とか尋ねていきなり異端扱いとかされたら目も当てられない。

 かといって、グラズ村長とかミリアとエリザ以外に聞く方が危険ではあるのだが、大まかな概要がなんとなく分かるまでは、その辺を歩いて色々見てその都度、地雷を踏み切らないギリギリのところを見極めつつ尋ねる方が安全だろうと思っている。


「チケットか……高いのか?」


「うーん、安くもないし高くもないですね。銀貨三枚くらい?」


「銀貨三枚か……」


 俺は懐に入れてある布袋を取り出して中身を見てみた

 中には金貨が十枚に銀貨が十五枚入っている。

 これはコボルト騎士の素材を引き取ってもらった結果得られたものだな。

 金貨、と言われるとものすごく高価な気がしてくるが、その辺の店のものの値段を見る限り、そこまで高価という感じでもなさそうだという気がしている。

 交換比率は、金貨一枚はおおむね銀貨十枚前後らしく、また銀貨一枚は銅貨十枚前後なのだという。

 また金銀銅貨については、半金や半銀があり、それはそれぞれの貨幣の半額らしい。

 また金貨以上の貨幣も存在しているようだが、これについては商人や貴族が使ったり、村や町が税金を納めたりするときに使う用途のもので、普通に持ち歩くような貨幣ではないらいい。

 ちなみに、金貨一枚を日本円に直すといくらか、だがこれは難しいな。

 一万円だ、とか言いたいところだが、三万円くらいの気もする時もあるし、五千円くらいかな、という気がする時もある。

 ものの価値観が地球と違うのではっきりとはしないんだよな……まぁでもなんとなく一万円くらいだと思っていてもいいか。

 別に地球で両替するわけでもない。

 そこから考えると、今の俺の所持金はこの世界では十一、二万円くらいだということになる。

 少なくはないが、多くもないな。

 宿とか取れるのだろうか?

 気にしすぎても仕方ないのかもしれないが、不安だ……。


 とまぁ、そんなわけで、銀貨三枚となると、三千円くらいかなという感じになる。


「……まぁそこそこか?」


 俺がそう言うと、エリザが、


「銀貨三枚あればそれなりの宿に泊まれるし、結構するなと私は思ってしまうのだが」


 と言ってきた。

 三千円の宿……日本だとビジネスホテルだ。

 しかしこの世界だとそこそこのところに泊まれるという。

 こういうところだな。

 価値観の微妙なズレは。


「一年に一回しかないんだから、それくらい出してもいいでしょ」


「まぁなぁ……」


 二人の会話に、そういえば、という感じで俺は言う。


「宿なんだが、取れるのか? 祭りのために全然空いてないとかは勘弁してほしんだが……」


 これに答えたのはエリザだ。


「それなら心配ない。流石に祭前日ともなると無理だろうが、今なら私が紹介できる。まずはそこに行こう」

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