第167話 集合
静さんがログハウスを引き払った二日後、俺はギルドビルに来ていた。
理由は簡単で、今日はみんなで迷宮に行く予定だからだ。
昨日行けばよかっただろう、と思うかもしれないが、静さんはギルドビルの一室を拠点とするから、そのための整理とかがあったからだ。
家具類を全部片付けるのは早かったが、改めて自分の生活する場所を整えるのにはこだわりがあるらしく、一日欲しいと言った。
ちなみに、昨日は俺も雹菜も樹もそのための手伝いに駆り出された。
別に無理やりというわけではなく、魔導具を身につけているとはいえ、全ステータス1の状態で一人で拠点を整えるのは大変じゃないか?という話をしたら、じゃあみんなで手伝いましょうということになっただけだが。
ちなみに慎と美佳は残念ながらギルド新人戦に向けて修行に明け暮れているので昨日も今日も留守だ。
俺も一緒に行って協力してやりたいのは山々だが、新人戦に俺が出場できるわけでもない。
というのも、ギルド新人戦にはいくつか部門があって、二人ともソロの部門でも出場するつもりでいるが、それ以外も出場するつもりでいるのだ。
冒険者というのは迷宮で魔物とパーティーを組んで戦闘することがメインであるから、そういう戦い方も世間に見せておきたい意図があるわけだな。
それで、パーティー戦と言っても人数ごとに分けられていて、二人〜四人までそれぞれの部門がある。
慎と美佳は当然ながら、二人戦の部門に出るつもりなのだった。
それが故に、二人で迷宮での夜な夜な修行をこなしているのだ。
別にカップルでイチャイチャしたいから、とかではない。多分。
「あ、樹」
ギルドビルのエントランスに入ると、すぐに樹に出会した。
「あぁ創。ちょうど一緒になったみたいだね」
「樹も今着いたところか」
「うん」
そんなことを話しつつ、集合場所である会議室に向かう。
「……あれ? 雹菜も静さんもいないな?」
樹が会議室に入ると同時にそう言って首を傾げた。
確かに会議室には誰も座っていない机と椅子があるだけだ。
一応、ホワイトボードには今日の予定が一応書いてあるので、ここで間違いないはずだが……。
そう思っていると、
「……静! あなた思ってたより随分とズボラね……」
「す、すみません……思った以上に居心地が良くて、大分寝過ごしてしまって……」
と言う声が廊下から響いてきたのでそちらを覗くと、雹菜に手を引っ張られてこちらにやってくる静さんの姿があった。
「あ、創に樹。早いわね」
雹菜が俺たちに気づいてそう言うが、樹が、
「いや、もう五分前だし……」
と答える。
すると雹菜は、
「えっ、あら、本当。もう、静がいつまでも寝コケてるから……!」
「だから、すみませんって言ったじゃないですか……」
「反省してないわね?」
「い、いえいえ……」
そんなやり取りを見つつ、俺がボソリと、
「……随分仲良くなったみたいだな?」
と言うと、雹菜が、
「あぁ、呼び捨てのこと?」
「それもあるけど……関係性?」
二人の対応がフランクになりまくっている気がした。
まぁ、仲良くなるのは悪いことではないし、いいのだが……。
しかし雹菜は微妙な表情で、
「……もう遠慮するのやめただけよ。昨日、私、ここに泊まり込んだじゃない? 一人にさせるのは心配だったし。で、二人が帰ったあと、結構話し込んでね。それでまぁ、ある程度打ち解けたのだけど……今日、昼前になっても部屋から出てきた気配がないから見に行ったのよ。そしたらまだ寝てて……」
今の時刻はちょうど13時である。
さっきまで寝ていたわけだ。
「叩き起こしたのか」
「そうよ。で、身支度を整えさせて、まぁ、見られるくらいなったから引っ張ってきたの」
「酷い目に遭いました……」
静さんがそう言った。
見れば髪には寝癖が見える。
本当に寝坊したんだな、この人、と言う視線が俺と樹から飛ぶと、流石に悪いと思ったのか、
「……申し訳ないことです……」
と言って頭を下げたのだった。
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