第508話 トレント
……まぁ、いいか。
色々考えてみたが、向こうから絡んでこない限りどうしようもない。
だからそういう結論になった。
こっちから近づいて追いかけっこになっても怠いし、そうではなく接触することになったとして、なんで着いてくるんだと尋ねたら、向かう方向が同じだけ、とか言われても如何ともしがたい。
だから今の俺に出来るのは試験に集中することだけだ。
もちろん、背後から狙われたりしても大丈夫なように、意識の一部は常に警戒しては置くけれど。
で、次の目標だ。
オリーブトレントだが、トレント系の常でその樹木が巨大化したりしたような見た目を持つ。
オリーブトレントもそうで、オリーブの木にしては背が高く巨大であり、葉なども密度が高い。
加えて、その実であるが、リンゴくらいはあるものが大半だな。
そしてそれを弾丸のように撃ち込んでくるというのだから恐ろしい。
ちなみに、当然の如く移動するというか、歩くだけで無く走る速度でも動いてくるので樹木という存在の常識から外れている。
魔物に対して今更な話かもしれないけどな……。
「さて、どこだオリーブトレント……」
基本的には日当たりのいいところにいることが多い。
そのため、森の中でも開けている空間があれば狙い所だな。
そう当たりをつけて探していると……。
「お、あれはそうじゃないか?」
そう感じるところに出た。
森が小さな空き地というくらいに開けているが、そこには数本のオリーブの木が生えている。
もっと色々生い茂っても良さそうなのに、真ん中にオリーブの木だけがある……不自然だ。
ただし、動いている様子は無いが、よく見てみると地面に何かを引きずったような跡が見える。
おそらくあれはトレントが動いたときの足跡というか、根跡というか、そんなものだろう。
オリーブトレントは光合成以外に獲物を捕食するらしいから、そういう獲物を引きずった跡かもしれないが。
それにしても、三匹はいると思われるので困る。
まぁまぁ強いらしいんだよな。
それに、オリーブの実を飛ばしてくるので、三匹同時に相手するのは少し面倒くさいのだ。
防御力上げとけばなんとかなるか?
うーん、それもな。
最後の手段はそれしかないかもだが、とりあえず、釣り出すか。
うまく一匹だけ残れば良いが……。
そんなことを考えながら、俺は地面からいくつか石を拾う。
そして、それを広場の中、オリーブトレントと思しき樹木にぶつけた。
すると、今まで全く動かずに完全な樹木になりきっていたオリーブトレントが動き出す。
今までただの樹皮でしか無かった部分に、目と口が出現し、きょろきょろと周囲を観察しだした。
「ウロロ……」
という、妙な鳴き声?のような声を発するトレントに、俺は再度、石を投げつける。
しかし、直接ぶつけるのではなく、トレントを飛び越すような感じで向こう側の草むらに投げ、そちらで物音を立てさせた。
すると、トレントのうち、一体がそちらに向かって進み出す。
何かいるのか、確認しに行ったのだろう。
しかし他の二体は動いてはいるものの、向こう側に行ったトレントについていくつもりはないらしい。
その場できょろきょろしている……。
つまり、二体は残ってしまったわけだな。
三体全てよりはマシだが、二体か……。
まぁなんとか出来なくも無い、か。
別に三体でも平気ではあったんだ。
ここは少し頑張ろう。
そう思った俺は剣を握り、そして地面を踏み切った。
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