第215話 帰れない
「……ヤバい、帰れん……」
ボフッ、と寝台の上に仰向けになりながら、ため息をつきつつ、俺はそう一人つぶやいた。
部屋は、グラズ村長の好意により、村長家の客室を貸し与えられたので野宿はせずに済んでいるのでそれだけは良かった。
ただ……地球に帰る目処は、まるで立たない。
困った。
というのも、誰でも考えつくだろうが、迷宮に入ってミリアとエリザを助けに走り、こんなところにやってきてしまったわけだから、その逆をすれば帰れるのではないか、と俺は思った。
なので、あれから一度、村を出て元の場所に戻り、そこからやってきた方向へと戻っていったのだが……。
これが進めども進めども、どこにも辿り着けず、血の気が引いた。
やっぱり戻れないなとそこで分かってしまったから。
だが、俺はまだ、諦めてはいない。
普通に来た道を戻る、という方法では戻れないというだけで、何か他にやり方はある可能性はゼロではないからだ。
何を希望的観測を抱いているんだ、と思われるかもしれないが、俺のこの考えには一定の根拠があった。
「《ステータスプレート》……」
ぼそりとそう唱えると、手元に金属製のプレートが出現する。
それを眺めると、
名前:天沢 創
年齢:18
称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》《総理(日本)の救出者》《アイドルのマネージャー》《異邦人》……
職業:魔術師《地球》
腕力:114
魔力:188
耐久力:182(+10)
敏捷:143
器用:3412
精神力:3879
保有スキル:無し
保有アーツ:《天沢流魔術》《天沢流剣術》
そこには増えている記載があることに気づけるだろう。
まず、称号欄に《異邦人》の文字があった。
これが何を意味するかは、今の状況を見れば割とはっきりしているように思う。
つまり、俺が地球から、この世界に来たことを表しているのだと。
さらにそれを補強するのが職業欄の魔術師《地球》だろう。
これについては難しいところだが、先ほど俺はグラズやエリザ、それにミリアたちにさりげなく聞いたのだ。
この世界には《魔術師》がいる、と言う話を。
ということは《ステータスプレート》の職業欄の記載は、地球産の魔術師の俺と、この世界の魔術師とを区別していると考えることが出来る。
そして、地球の魔術師、というのがいるように、この世界の魔術師がいるということは……《この世界》が《地球》とは異なる世界であることも意味しているだろう。
少なくとも《ステータスプレート》はそう捉えている。
俺は異世界に来てしまったのだ。
けれどそれを《ステータスプレート》が認識していることは、悪いことばかりでもないと思ったのだ。
これは、今俺の置かれている状況について、《ステータスプレート》からしてみれば、想定内の出来事なのではないか、と想像できるからだ。
であれば、元の世界に……地球に戻る方法があってもおかしくはないのではないだろうか……。
これでも、あまりにも甘い考えかもしれない。
だが、俺にはよく考えてみると、異世界から地球へ行った人に、知り合いがいるのだ。
「……梓さん。あんたはどうやって地球に行ったんだ……?」
そう、狐耳の、我らがギルドの顧問の一人、梓さんである。
俺以外の唯一の確認できている《オリジン》であり、さまざまなことを知っていて、底の知れない人。
あの人は、自らの口ではっきりと別の世界からやって来たことを語っていた。
だから、世界を渡る方法は、きっとあるのだ。
それを果たして俺が見つけられるかどうかは謎だが……。
いや。
見つけないといけないだろう。
そして、帰るのだ。
地球へ。
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