第216話 異邦人

 さて、どうやって帰ろう。


 これが今の俺にとって最大の問題であるのは言うまでもない話だが、それ以上に即物的な問題もあった。


「……どうやって金を稼ぐか、ですか?」


 村長のグラズが相談した俺にそう言った。

 俺は頷く。


「ええ。実のところ、色々と理由がありまして、今はほとんど持ち合わせがなくて……しかしいつまでもご厄介になり続けるわけにも……」


「ふむ……私共としては、もうしばらくいていただいても構いませんが……。それにこの間、倒してくださったゴブリン騎士たちの武具や素材を行商人に売却すれば、かなりの額になろうかと。ハジメ殿は冒険者なのですから、領都で依頼を受けるという手も勿論あるでしょう……」


 とここまで話して、グラズは少し首を傾げていた。

 理由ははっきりしている。

 そんな当たり前の話をなぜするのか、と思っているのだろう。

 俺は冒険者だと名乗ってしまっているからな。

 冒険者として当然知っているべき話を知らないというのはおかしい。

 それでもこのまま誤魔化し続けてもいいのだが、流石に心苦しいし、単純に言い訳するとしてもかなり苦しいものになるのは目に見えていた。

 だから俺は思い切ってある程度のことを正直に告げることに決める。

 俺は言った。


「……ご不審に思っておられるでしょう?」


「え、あ、いや……」


「いえ、それも当然なのです。私は冒険者だというお話はしたと思いますが……実は正確なところを話していませんでした。どこまで話していいものか、信用していいものか、迷っていて……」


「……ふむ……では、何か明かしてくださると……?」


「というより、頼らせてほしいのです。グラズ村長は、先日から私の質問が妙なものだと思いつつも、真摯に説明してくださいました。お人柄も、私程度のものがとはお思いでしょうが、好ましく感じております。ですから、本当の相談に乗ってほしくて……」


「そうまで言っていただけると、断りにくいですな……しかし、一体どのようなご事情が……? ゴブリン騎士を倒されたのは間違いないのですから、冒険者というのは事実なのでは? 一般人にどうにか出来る存在ではありません」


「それも……何と言いますか。確かに私は冒険者です。ただ、こことは別の場所でそう活動していただけで、エリザさんとは違うように思うのです」


「と言いますと……」


「私の冒険者ランクは、E級なのですが、こちらでは星で表していると聞きました。その時点で……」


「それは……しかしこの大陸では冒険者ランクは全て統一されていて……もしや、別大陸から……? 遠い場所とはそういうことですかな……?」


 グラズ村長は、やはり村長をしているだけあって物分かりがいいというか、断片的な情報から色々と推測してくれる。

 実際には違うのだが、似たような事態に陥っているのは間違いないので、この辺りが落とし所だろうと思って乗っかる。


「おそらくはそのようなことだと……私は迷宮を探索していたのですが、気づいたらエリザさんとミリアさんの助けを呼ぶ声が聞こえて、そちらに向かったのです。そして連れられてきてみれば、この村に……」


「む……? そうなると……もしや、《異邦人》ですかな?」


 その単語に、俺は驚く。

 《ステータスプレート》に記載のあった単語だからだ。

 俺は初めて知ったような顔をして、尋ねる。


「《異邦人》とは……?」


「私も詳しくは知りませんが、たまにいるのですよ。どこかから突然やってきたように、その土地の常識を知らぬ者、というのが。彼らに共通するのは、迷宮を探索していたら、気づけばそこにいたと……。昔話や絵本などによく描かれていますが、本当にいたらしい、というのは、この国の歴史にも残っております」

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