第373話 志賀大和の気持ち 5
「……へぇ、みんな中々いいですね。狭霧高校って私、王華にいた時あんまり名前聞いたことなかったですけど……これは豊作なのではないでしょうか?」
白宮さんが隣の山田先生にそう言っていた。
山田先生の方も鼻が高い様子で、
「それは私も同感です。私が高一だった時は、これほどの練度で戦うことは出来ませんでしたね。まぁ、面と向かっては中々言えませんが……」
最後の方は少しばかり囁き声だったのは、本人が言う通り、俺たちに聞かせないためだろう。
変に褒めすぎると生徒たちが増長してしまうと思っているのだろうな。
しかし、これについては俺も初めて聞いたので意外だった。
普段、山田先生と言ったら、全員に厳しく、滅多に褒めたりはしないからだ。
もちろん、しっかりと成果を出した時はよくやったと言ってくれるのだが、そのレベルが非常に高い。
冒険者高校とはこれほどまでにきついところなのか、と思っていたが……俺たちは思ったよりもレベルの高い教育を受けさせてもらえているのかもしれないなと思い直す。
「山田先生はD級冒険者の資格をお持ちでしょう? それなのにですか?」
これを尋ねたのは、天沢さんだった。
山田先生は、
「天沢……さんにそれを聞かれるのはちょっと意外ですが……」
「いえ、あの、高校時代は大変お世話に……」
「あぁ、いいのです。立派な冒険者になって、私は嬉しいですよ。あの頃、天沢さんが有名ギルドに所属するのは難しいと思ってましたから」
「でしょうね……運が良かったのだと」
「そんなことは。あの頃も言ってましたが、冒険者の実力は引退するその時までわかりません。そして、天沢さんはとても努力されて、それが実を結んだのです。本当に嬉しいです……」
「恩師の方々がみんなそのように言ってくれるのはありがたいです」
「ふふ、話を戻しますが、今年の一年生は本当に豊作ですよ。天沢さんの妹をはじめに……あぁ、今、彼女と戦っている大和も相当なものですよ。うちのクラスの実技系ナンバーワンとツーですからね」
そして、三人の視線が俺たちの方に向いた。
それと同時に、手合わせしている佳織がニヤリと微笑み、
「ウォーミングアップはこの辺でいい? 悪いけど、今日は本気で行くよ」
と、いつもと比べてはるかに真剣な表情をこちらに向けてきた。
三人に……特に、自分の兄貴に直接いいところを見せたい、と言うところだろう。
俺相手であるなら、余計にそれが見せられると考えての。
俺はそこで、初めて俺自身に向かってきてくれるような感覚がして……知らず、口の端が上がった。
不思議な感覚で、ただ俺はその気持ちを拒否せずに佳織に言った。
「……いいぜ。来いよ。俺も全力でやってやる!」
そして、俺と佳織は模擬武器を手に、ぶつかり合う。
いくら実技とはいえ、真剣では滅多に戦わない。
怪我の危険が、と言うより死の危険があるからだ。
見習いにすぎない俺たちであっても、それくらいの力は普通にあるからだ。
これが冒険者適性のある人間の恐ろしさだ。
だからこそ、俺たちには数多くの特権と共に、規制も科されている。
まぁ、現実には一般人より明らかに冒険者の方が優遇されているけどな。
本音と建前と言うやつだな。
でだ、俺と佳織の戦い結果は……。
「……はぁ、はぁ……どうやら、私の勝ちみたいね」
佳織の模擬剣が俺の首筋に当てられていた。
俺の剣は、地面に落ちている。
最後の一撃を受けきれず、弾かれてしまったからだ。
まぁ……ここからでも、スキルを使えばまだやりようはないではない。
俺にだって切り札の一つや二つ、あるからだ。
けれどそれは佳織も同じだろう。
そもそも、今はあくまでも近接戦を見てもらってるんだしな。
それに、ここ最近では最も気分良く負けた気がする。
だから俺は佳織に言った。
「……俺の負けだよ。やっぱお前はすげーな……」
しみじみとした言葉だったが、佳織はこれに意外そうに目を見開いて、華やかに笑ってから言った。
「何よ、いつもその感じでいりゃいいのに」
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