第374話 志賀大和の気持ち 6

「……その感じって……」


 佳織に言われたことを、鸚鵡のように繰り返す俺。

 しかし口に出してみると、まぁ……そうか、という気がして今まで抱えていた理不尽かつ無意味な感情がすっぽり抜けた気がした。

 だからその後の言葉は、割と素直に言えた気がする。


「……悪かったよ」


「え?」


「今まで、悪かった。変な絡み方ばかりして……」


 すると佳織は目を見開き、それから、くつくつと笑い出す。


「な、何がおかしいんだよ……」


「いや、だって……素直だからさ。でも、その方がずっといいわ。っていうかなんで今まであんなんだったの? 別に個人的恨みとか私にないでしょ? 高校で知り合ったんだし」


 佳織も、なぜ自分が俺に目の敵のようにされてたか、その理由が気になるらしい。

 全く何も気にされていないと思っていたが、そういうわけでもなかったようだとここでも知れる。

 というか、当然か。

 絡まれ続けてたらなんなんだこいつとはなるよな……その辺も俺は、意識的にも無意識的にも考えの外に置いていたと思う。

 説明する責任はあるだろう、と思って俺は今までの経緯を全て説明した。

 すると佳織は、


「あー……なるほど。うーん、まぁ分からないでもないけど……。でも私と戦っても無意味じゃない? 別に私、クラスでは一番だけど世界一とかじゃないんだし」


「おまっ……いや。そりゃそうか。でもほら、最も身近な目標というか、越えるべき壁というか、そんなんあるだろ……?」


「私には正直イマイチ……? 男の子はそんなものなのかな?」


「えぇ? あいつを超えてやるとか思って燃えるだろが……で、こうやる気を……」


「いやぁ、ないなぁ……。でもそういう気持ちだったんだとは理解したよ。あと、私が大和を全くライバルとして意識してないとかについては、勘違いじゃないかな?」


「だって……お前……」


「あぁ、超えてやろうとか負けないようにしようとかは思ってなかったのは確かに本当だとは思うけど」


「じゃあどういうことだよ」


「それは……うーん、言葉にしにくいなぁ。あっ、そういえば……ちょうどいいかも。ねぇ、大和。ちょっと雹菜さんとお兄ちゃんに手合わせとか頼んでみてよ。出来ればお兄ちゃんなんだけど、そっちは私が見たいだけだからまぁ、雹菜さんがいいのかな?」


「あぁ? 急になんだよ……いや、流石にいくら俺だって現役冒険者に勝てるとか思わないぞ」


「割と身の程を知ってるというか、その辺りの感覚はしっかりしてるよね、あんたは……。でもほら、B級の雹菜さんはともかく、お兄ちゃんは大したことなさそうに見えるんでしょ?」


「……いや、それは。だから悪かったって……。本気で言ってたわけじゃないんだ。ただ、お前に当てつけを……本当にすみません」


「あはは。ごめんごめん、意地悪だったね。でも、今改めてお兄ちゃん見て……どう思う? 別に正直なところ言っていいよ」


「え? マジで?」


「うん」


「いや……正直に言えば、あんまり強そうには……でもまだE級だろ? これからの人なんじゃないか? 別にそんなの珍しくはないだろ」


「そうだよね……私にもそんな感じにしか見えないんだよね……」


 俺の言葉に返ってきた佳織の顔は、どことなく考え込むようなもので、単純に大好きな身内について考えているというより、何か不思議に思ってる、みたいな妙なものだった。

 俺も怪訝に感じて、


「それがどうしたんだよ?」


 そう聞かざるを得なかった。


「……私、気になってるんだよね。お兄ちゃんの実力。あんたには売り言葉に買い言葉、で強いんだとか言ったけど、お兄ちゃんが本気で戦ってるところ、見たことないから。まぁ、戦闘を見たことがないってわけでもないんだけど、あれが本当だったのかどうか、とか今になってみるとよく分からなくて……。あんたでお兄ちゃんの実力を測ってみたいの」

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