第372話 志賀大和の気持ち 4

 実技講習の内容は色々だが、実技、なのであるから基本的には戦い方、迷宮での立ち振る舞い方などを直接、実践して教わるのが基本になる。

 ただ、一番最初の授業は前半は短めのオリエンテーションをして、それから教室外の設備……体育館や闘技場、擬似迷宮や校庭に行って、みんなの実力をとりあえず、来てくれた冒険者の方に見てもらう、という流れらしい。

 事前に配られたプリントにも書いてあったそのような話を、山田先生がもう一度確認がてら語り、それから、二人の冒険者が自己紹介を始めた。

 言うまでもなく、《無色の団》の二人だ。

 一人目は、アイドル冒険者として有名なこの人。


「……白宮雹菜と申します。クラスはB級で、《無色の団》の代表をしています。戦い方は……主に前衛ですが、《氷術》も使えるので中衛、後衛の戦術についてもそれなりです。どんな立ち位置を目標にするにしても、ある程度相談には乗れると思いますので、遠慮なく話しかけてくださいね」


 端的で、卒のない挨拶だったが、そんなことよりもその微笑みにクラスの大半の男子は撃ち抜かれた。

 あまりにも可愛すぎた。

 アイドルレベルの美貌だ、とかひたすらにテレビで言われていて、何度となく画面に映るこの人を目にしていても、実際にこの距離で見てみるとレベルが違った、ということだろう。

 仕草にも品や色気があり、また社会人として、ギルド代表としての凜とした自信の感じられる立ち振る舞いは女子高生にはない大人らしさまで宿っていた。

 それはやられて仕方がない、と俺も思った。

 ただし俺はそんな奴らとは違って浮ついた気持ちなどないが。

 白宮さんの挨拶の後、しばらくの間、クラスにおしゃべりの声が絶えなかったが、山田先生が、


「はいはい! もう一人いるんだからね! 静かに!」


 と手を叩いて叫ぶと教室が静寂に満たされる。

 それから、苦笑したようにもう一人が少し前に出て、控えめな様子で、


「……天沢創です。《無色の団》所属のE級冒険者で、戦い方は主に前衛です。中衛後衛についてはやれないことはないですが、白宮代表ほどではないので大目に見てください。それと、ご存知かもしれませんが、狭霧高校出身なので、進路等の相談には比較的乗れると思います。高校の時はあまりパッとしない方だったので、色々模索しましたから遠慮なくどうぞ」


 そう言って頭を下げた。

 意外な振る舞いというか、あの佳織の兄貴なのだからガサツなのだろうな、と予想していたが、むしろ何かこう、執事っぽいというか、マネージャー然としているというか、大人の余裕が感じられた。

 そんな彼に白宮さんは優しげな視線を向けていて、他のクラスメイトから見ればそれは部下に対する賞賛の視線にしか見えなかっただろう。

 ただ、俺はまた別の意味があるだろうことは察していた。

 けれど、ここで俺は若干だが見直したというか、必ずしも色恋どうこうだけでギルドに入れたわけではないのだろうなとは思った。

 事務方が優秀とか。

 そういうのはあるだろう。

 ただ、実力の方は……やはりE級だろうからな。

 必ずしも弱いとは言い切れないが、期待出来なさそうな感じはした。

 というのは何も根拠がないというわけではなく、白宮さんから感じられる魔力の圧力は相当なものなのだが、天沢さんからのそれは全くの無だったからだ。

 ある程度の実力を持つ冒険者からは、ある種の圧力が感じられるものだ。

 それは魔力の威迫だと言われていて、だからこそ、これほどの距離まで近づけば、大まかな実力差は理解できる。

 だが、天沢さんのそれは……。

 やはり、先を目指すなら白宮さんに色々と学ぶべきか。

 この時の俺は、愚かにもそんなことを考えていた。

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