第371話 志賀大和の気持ち 3
俺には興味もないような視線しか向けない佳織が、あれだけ本気になる相手だ。
元々、先輩冒険者という以上の興味しかなかった天沢創、という人のことが俺もかなり気になってきたのは言うまでもない話だった。
だから、その日が来るのが楽しみだった。
実技講習の日が。
それまで、俺は自分を磨き上げて……それで。
そうだな、現役の冒険者にも少しくらいは認めてもらえるくらいの実力をつけておきたい。
そうすれば、佳織だって俺に……。
そう思っていた。
そして、その日が来た。
《無色の団》の二人が、一体いつ頃、学校に来るのかなんて分からなかったから、俺はその日、だいぶ早めに学校に行った。
いつもよりも早めに目覚めた気分は悪くなく、学校までの道のりも何か爽やかな気持ちで歩けた気がする。
俺が目標とする冒険者に、実際に色々と教えてもらえるのだ。
その機会がどれだけ貴重かは、俺にもよく分かっていた。
もちろん、有名な冒険者の話を聞きたくて、テレビや、講演会とかには今まで何度も足を運んだが、そういう場合、直接、自分の力を見てもらってアドバイスをもらうとか、そういう機会は得られるものじゃなかった。
そもそも、一般人が聞きに来るようなそういう場所で、冒険者の詳しすぎる活動を話すことも少ない。
機密の問題だってあるからな。
けれど、冒険者学校の実技講習であれば、かなり突っ込んだ話も出来る。
だからすごく楽しみにしていたのに……。
「私は創にだけモテていればいいもの」
職員室前で、白宮さんがそんなことを天沢さんに呟いていたところを俺は聞いた。
さっきまで、彼女たちは多くの生徒に囲まれていた。
テレビでもよく見る、アイドル冒険者の中でも最もランクが高く、またルックスも絶世と言われる人だ。
少し歩くだけで大量の人が集まってくるのも当然だった。
ただ、既に学校の敷地内に入っていたから、学生以外は近づくことができなかったことは幸いだろう
気配を見てみれば、校門の外には記者と思しき人影が何人かあった。
もちろん、これについては白宮さんも気づいていたのだろうが、いつも通りのことだと気にしていないことはわかった。
彼女は昔から、多くの人々から目を向けられるような、注目される存在だったから、慣れているのだろう。
ただ、そんな視線も、校内の、しかも職員室周りとなるとゼロだ。
記者は当然のこと、流石に職員室近くに自ら集まって、人だかりを作る度胸はその辺の高校生には中々なく、今は静かなものだった。
だからちょうどいいかと思って、二人に近づき、少し話を……と思って近づいてみようとしたのだ。
しかし、その結果が、先ほどの白宮さんの言葉だった。
どことなく甘い雰囲気もあって、ただ天沢さんはすぐに照れ隠しのように職員室の中に突っ込んで行ったが……俺はここで少し思ってしまった。
あの二人は……恋人関係なのか?
だとしたら……売り言葉に買い言葉みたいな感じで、佳織に言ってしまった、白宮さんが籠絡されてる見たいな俺の誹謗は……意外に当たらずとも遠からずだったのか?
だとすれば……それは許されることなのだろうか?
と。
もちろん、わかっている。
ギルドに入る入らないについては、実力以外にコネとかもあるし、それ自体否定することはない。
時には色恋だって利用してうまくやるのも、俺はやらないしやれないと思うが、手段として全くなしとは言えない。
しかし、そんなつまらない手管に、日本国民全員が注目する若手のトップ冒険者が引っ掛かっているかもしれない、というのは、俺をひどく動揺させた。
だから、その後、実技講習の前に二人の冒険者が教室へと入ってきた時……俺は強い視線を、天沢さんに向けてしまった。
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