第132話 帰還
「……今日からまた、東京か」
ギルドビルに出勤し、俺は背伸びをする。
「お、おはよう」
「おはよー」
俺とほぼ同時に出勤したようで、慎と美佳も後ろからやってきて、そう声をかけてきた。
「あぁ、おはよ」
「あれ、雹奈さんは?」
「雹奈は色々やることがあるって一時間くらい先に家を出たよ」
「そうか……なんか普通に同じ家から通勤してるの、もう普通になってるのよく考えたら凄いな」
俺と雹奈のことだが、まぁ、よくよく考えてみると結構おかしいとは思う。
だが、ギルドを設立するときの作業で寝泊まりを同じ家でするのが普通になってしまったし、実家は遠いしで、もうほとんど同棲している感じなんだよな……まぁ今更の話だ。
「雹奈のファンに刺されかねないな」
俺が肩をすくめて冗談混じりでそんなことを言うが、美佳が、
「それ、冗談にならないから気をつけた方がいいよ? 結構過激なファンは最近いっぱいいるからねぇ」
「いや……アイドルとかにだったら分かるけど、雹奈は冒険者だぞ? それに俺だって冒険者だ。冒険者に襲いかかるのは躊躇するんじゃないか……」
何せ、冒険者は一般人とはステータスの桁が違う。
何人いようと、よほど強力な銃火器でも持っていなければ相手になることはない。
けれど美佳は言うのだ。
「別にファンが一般人とは限らないでしょ。冒険者のアイドルなんだし、冒険者のファンが普通にいると思うし。学校でも雹奈、人気だったんでしょ?」
これは以前、俺と慎を訪ねてやってきた時の話だな。
それを言われると、確かに、と思わざるを得ない。
かなりもみくちゃになりそうなくらい人が集まっていたのを思い出す。
そして……あそこにいた連中も、俺たちと同じ学年のやつもいたから、今は冒険者をしているはずだ。
そんな奴らが俺と雹奈の同棲まがいのことを知ったら……。
「恐ろしすぎるな」
「でしょう。ま、気をつけることね〜……あっ、そういえば佳織ちゃん、冒険者目指して頑張ってる?」
話を急に変えた美佳である。
俺は、
「お前は前から知ってたんだろ? 聞いたよ」
「あっ、そうだったんだ。いやぁ、言い出しにくくて」
「いや、分かるけどな……」
佳織は結局、俺にはずっと内緒にしていたわけだが、冒険者学校に入学した。
受かってからもしばらく俺にはコソコソしてて、普通の高校に通っているものと思っていたのだが、ついにこの間発覚した。
というか、本人が隠し通せなかった。
いつの間にか、なんだか妙な魔力を発するようになっていたからな……あんまり微弱なら、一般人でもありうることだが、そうとはいえないくらいに魔力を放出している時があった。
あれは油断だったというより、まだまだ入学したてである佳織にはその辺の感覚が分かってなかったのだろう。
で、細かく尋ねた結果、ついに吐いた。
まぁ、しつこくするのもどうかと思って、俺は途中で引いたのだが、佳織もどうやら俺に隠し続けることが心苦しかったらしい。
一度隠してしまった手前、言う機会を逃し続けていたようで、両親からも早めに言ったら、と言われていたようだが、それにも意地を張り続けて、ついには言えなくなっていた、と。
俺と佳織の不仲というか、佳織が俺に対して口をあんまり聞かなくなっていたのはその辺に理由があったようだ。
つまり話したらボロが出るから。
でも、俺が命の危機にさらされるようなことがあり、そこからは一体いつ死ぬかわからないということを切実に感じて、普通に話すようになったらしい。
でも、自分の進路は言いにくくなってしまった。
命の危険があると深く理解して、兄ならきっと反対するだろうと。
だから受かって入学してから話そうと、そんな経緯だった。
まぁ言われてみると理解できる心情かもしれないが、お兄ちゃんとしては早めに言って欲しかったなとも思う。
反対しなかったかと言われたら、反対はしただろうが、結局俺が冒険者やってるのだからその反対に説得力はなく、早々に論破されていただろうし。
まぁともあれ……佳織は、いずれ冒険者になる。
その時には、俺もいっぱしになっていたいものだ。
「佳織ちゃんならいい冒険者になるだろうさ。その前に、まずは俺たちの方がどうにかならないといけないけどな」
慎がそう言った。
「あぁ、ランクがな……なんだかんだ、俺たちってまだ、E級とF級に過ぎないものな」
「そういうこと。ま、俺と美佳はスキルのお陰でE級から行けたが、お前は試験受けないとならないだろ。今日、雹奈さんが申請してくれるんだよな?」
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