第133話 試験概要
「……試験の申請はしたわ。でも、大丈夫?」
雹奈が執務室で俺にそう言った。
俺は首を傾げて、
「何が?」
そう尋ねると、彼女は顎に手を当てつつ、俺の腰を指差す。
「それよ、それ」
「……あぁ。まぁ大丈夫じゃないか? 特段今の所、何も問題ないし」
俺の腰には、革で作られたバッグのようなものがある。
そこに入ってるのは、《妖人の里》で手に入れた《卵》だ。
昨日の今日であるから、当然、まだ孵ってはいない。
鞄は妖人の職人が良さげな品をカスタムして作ってくれたので、邪魔にならない位置にちょうどよく収まっている。
当然だが、今でも俺の魔力を吸い上げている……というか、吸い上げようとしているが、量はだいぶ抑えていた。
完全に抑えてしまうと、中身が死んでしまう可能性がある。
安全性を考えるとそれでもいいかもしれないが……なんとなくだが、これの中身は、殺してはいけないような気がしていた。
どうしてかと言われると、ただの勘だとしかいえないが。
ただ、そのことを梓さんに話すと、《オリジン》のそういった勘は馬鹿にできないことが多いので、よっぽど無理なものでなければ可能な限り従った方がいいだろうと言われていた。
「今は大丈夫でも、突然孵ったりする可能性はあるでしょ」
「ないとは言えないけど……その時はその時としか言えないからなぁ。ただ、普段与える魔力は基本的に自然回復分だけで、家に戻った時に余った魔力を上げることに決めただろ。だから孵るなら多分、家で、じゃないか?」
「私の家で急に孵られてもそれはそれで困るんだけどね… …」
「他のところで孵るよりいいだろ。それに雹奈だって魔力注いでるじゃないか」
そう、最初は無理矢理こいつに魔力を吸い取られた雹奈だが、家に戻ってきて昨日の夜はなぜか彼女も一緒に《卵》に魔力を注いでいた。
しかも、孵るまで続けるつもりだという。
どうしてそんなことを……と思うのだが、雹奈は言った。
「そ、それはほら……魔力って、使えば使うほど増えるって言うじゃない。空に近いところまで持っていけば、なおのことね。家で術やスキル使いまくるわけにもいかないし、その《卵》なら一瞬で魔力持っていってくれるし、効率もいいし!」
なぜか妙に早口だったが、言っていることは割と納得できるものだ。
「そういうことならいいけど……あぁ、そうそう、話は戻るけど、試験って何やるんだ?」
もちろん、これはE級昇格試験のことだ。
雹奈は俺の言葉にどうしてかほっとしたような表情をしてから、語り始める。
「昇給試験は級によって色々だし、同じ級だからって毎年同じ内容ってわけじゃないからなんとも言えないわ。ただ、筆記だけはいつも範囲は同じだから、勉強しておくこと……って今更言っても仕方ないかもしれないけどね」
試験はおよそ一週間後だ。
一週間の勉強でどれだけの内容を頭に入れられるかという話だが、そう多くはないだろう。
それにしても申請の締め切りが近いな、という感じだが、これはE級の試験だからだ。
毎月行われていて、申請はギリギリまで出来る。
多くの冒険者が、とりあえず目指す級であるためである。
級が上がっていくにつれて、試験の開催日程は開いていき、S級に至っては試験などない。
A級でも一、二年に一度、あるかどうかだ。
しかも、これは定期的に行われるわけではなく、昇級できる見込みの冒険者がある程度見出されたときに、不定期に行われるにすぎない。
定期的にある試験はB級までで終わりなのだった。
つまり、普通にやって上がれる限界は、B級で、雹奈は若くしてそこまで上り詰めているというわけだな。
彼女がA級に上がれる日はいつ来るのか、という感じだが、その辺りは冒険者庁の胸三寸、ということになる。
A級ともなれば、試験内容を考えるのも実施するのも大変だろうしなぁ……仕方がないというものだ。
「筆記については学校である程度のところまでやってるから。C級くらいまでの内容は対応できると思う」
「まぁ、その辺は心配してないわ。大体、冒険者学校出はそんなものだものね。問題は実技だけど、大抵は迷宮探索になるわ。ソロとパーティー、どちらかで攻略して、指定された品を採取してくる、とか、決められたボスを倒すとかが多いけど……こればっかりはね。一週間後をお楽しみに、という感じだわ」
「恐ろしいな……」
「きっと受かるわよ。安心して」
「だといいけど」
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