第366話 台所事情
「ところで肝心の授業なんですが、事前にお伝えしたとおり、三時間目からになります。今は八時ですから……十一時からですね」
カナ先が雹菜に向き直り、そう言った。
俺に対してではないのは、やはり《無色の団》の責任者、ギルドリーダーは雹菜だからだな。
もちろん、それでも俺も聞いてるのは当然の話だが。
「はい、承知しております。早めに呼ばれたのは……」
「ええ、まずは設備等を確認していただいた方が良いかと思いまして。事前に資料などはお送りしていたと思うのですが……」
「それはそうですね。基本的な設備はどの高校でも同じとはいえ、使い勝手など違うことは当然でしょうし……」
「かなり古い設備だから覚悟しておいた方がいいぞ。雹菜の通ってた王華高校とは資金力が違うからな」
俺がそう口を出すと、少し驚いた様子で雹菜が、
「そ、そうなの?」
そう言う。
カナ先も俺の言葉になるほど、と意図を察して言う。
「……王華はうちとは本当に予算の規模が違いますからね……あそこには、高校に入学する前から才能や実績を認められた生徒しかおりませんでしょう? それに卒業生たちも錚々たる面々ばかりで、寄付なども潤沢にされると思いますが、うちはそこまでではないので……申し訳ないのですが、設備は古いものが多いです。もちろん、整備などは欠かさないようにしてはいますが、交換時期に来ているものも多くて」
「我が母校ながら、だいぶ苦しい台所事情してたんですね……」
「冒険者育成校ってのは、設備が普通高校と比べたら特殊なものが多すぎて、高価なものばかりだ。だから、基本的には国からの補助金頼りだからな……実績のある高校に多く配分されるのは当然の話だ。ただな、お前たちのお陰でうちも次は期待出来そうだからな……結構問い合わせが多いんだ、慎と美佳がうちの卒業生かって」
「あぁー……二人の存在が実績としてカウントされて、補助金とかが増えそうだってことですか?」
「そうだな。冒険者の情報は基本的に公開されてる。もちろん、自宅住所とかそんなのは個人情報として保護されてるが、出身校とかその辺はな。後進のために公開情報になってる。それはお前も習って知ってるだろ。それで受験者も大幅増加しそうでな。冒険者省も文科省も、そういうところには期待して補助金を増やしてくれる」
「ははぁ、そうか……あの二人の活躍は知れ渡ってるんだなぁ……」
「問い合わせは、お前に関してもたまにだがあるぞ」
「え、本当ですか? 俺何にも実績と呼べるもの出せてないですけど」
公開すれば、かなりの実績とされるものならいくつもあると言っていいだろう。
流石にそこについて謙遜するつもりはない。
異世界見つけたとか、他の誰も持たないアーツをいくつも持ってるとか、ステータスの値がバグってるんじゃないかというくらいに高くなったとか、自慢できることが多いのは間違いない。
でも、全て明かすのは躊躇するものばかりだ。
そもそもギルド外に出すと優位性が失われる。
だからそれはそれでいい。
まぁ、いつまでも雑魚扱いされ続けるのは癪だから、そこについてだけは改善していくつもりはあるが。
ランクとか、そういうのな。
そんなことを考えている俺に、カナ先は言う。
「《無色の団》に入ったことが評価されてるんじゃないか? 白宮さんの顔をテレビで見ない日は今、ないからな……ただ、若干妙な問い合わせもあるが。お前について何者なんだ、みたいなよくわからないこと聞く奴がいる。まぁ、流石にそういうのにはまともに何も教えたりはしてないが……」
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