第365話 カナ先

「……おぉ、おぉ! 来たか……いや、ようこそおいでくださいました。《無色の団》の、白宮さん、それに天沢さん」


 職員室に入り、近くにいた職員に用件を告げると、すぐに担当の者を呼んでくるのでこちらでお待ちを、と応接室に通された。

 そこで少し待っていると、扉が開き、そしてそこから現れたのは言わずと知れた俺のかつての担任である、金山先生……通称カナ先だった。

 意外だったのは、昔のような口調ではなく、しっかりとした敬語で俺たち……というか俺に話しかけたことだ。

 雹菜とは初対面だろうし、昔から腕利きの冒険者として有名であるから当然だろうけど、俺にまでそんな、と思ってしまう。

 確かにしっかり社会人になったのだし、お互いに礼儀というのはあるとは思うが……。

 そんな気持ちが表情に出ていたのかもしれない。


「……悪いな、天沢。急に態度が変わったみたいで違和感があったか?」


 とカナ先が昔ながらの口調で言ってくる。

 それにどこかホッとする俺がいて、それに気づいた俺は苦笑しながら、


「あぁ、いえ……すみません。ちょっと驚いてしまって。白宮にはともかく、俺に対しては昔通りでいいですよ」


「そうか? だがそうは言ってももう立派な社会人、それもこちらが依頼をお願いしている立場だ。それなのに……」


「それよりも俺には恩師だという感覚のほうが強いですから」


「そう言われると弱いな……白宮さん、申し訳ないのですが……」


 話を振られた雹菜はそれに微笑みながら首を横に振って答える。


「いえ、金山先生のことは、私もここに来る前に天沢からお聞きしておりますので。以前と同様に扱ってもらって問題ありませんよ。私に対してもあまり謙りすぎる必要はありませんので……」


「そうですか……ではお言葉に甘えさせていただきます。それと、遅くなりましたが、今回は依頼をお受けくださって、本当にありがとうございます。《無色の団》に依頼をするよう、校長に提案したのは私でしたが、お忙しいでしょうし、難しいだろうと考えておりましたので……」


 これに俺は驚いて尋ねる。


「えっ、そうだったんですか? てっきり、佳織の奴が無理を言ったんだと思ってましたよ、俺は」


「お前の妹のな。確かにあいつも推してたが、最終的に頼んだのは俺だ。やっぱり、生徒たちのこれからを考えると、ここの卒業生たちに話を聞いた方がためになると思ってな。だから、慎や美佳も来てくれないかと思っていたが……」


「本当ならその予定だったんですけど、依頼があって今回は厳しくて。申し訳ないです」


「いや、天沢は来てくれたんだから、構わない。それに今回限りってつもりもないからな。知っていると思うが、実技講習は継続的な科目だ。全てで半期十二回ある授業で、何度か来てくれればありがたい。難しいようなら他のギルドにも頼む予定だ……というか、半分はすでに他のギルドで決まっているが。もちろんこれは《無色の団》に不満があるとかではないからな」


「分かってますよ」


 実技講習の科目は、複数のギルドに来てもらうことが多い。

 多くの冒険者に触れ合ってもらいたい、という高校側の事情からだ。

 ただそれと同時に、ある程度、継続的に教えてもらいたいという要望もある。

 そのため、一つのギルドには三回、可能であれば六回程度担当してもらいたい、と考えているのだと聞いていた。

 高校生の時はその辺の事情をさほど考えたこともなかったが、言われてみると学生のうちに冒険者と接する機会はそれほど多くない。

 特に、直接教えてもらうとなるとな。

 その辺りについて、色々と考えてくれていたのだ、と今更ながらに理解して、感慨深いものがある。

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