第367話 機密
「えぇ、なんですかそれ。怖いなぁ……」
俺がそう呟くと、雹奈も頷いて、
「ギルドにもたまにあるからその類でしょうね……うちには色々、外部には出してない情報があるから」
そう言った。
「なんか漏れてるのか?」
「いいえ。ただ、うちの躍進が必ずしも私だけの力ではないってことは、鼻の利く人は気づいているのよね。で、ちょっと調べてうちで一番妙なやつ、に見えるのが創なんじゃない?」
「なんだよ、当てずっぽうか……」
「冒険者の当てずっぽうは当たることも多いからね。第六感ってやつ鋭いって言うじゃない」
「まぁなぁ……」
そんな話をしていると、カナ先が、
「……それって、私の前でしていい話ですか?」
と気を遣って言ってきたので雹奈は言う。
「特に具体的な話をしてるわけじゃないですし。機密なんてどこのギルドでもあるでしょう」
「まぁそりゃそうですが……とりあえず、忘れておくことにしましょう」
「そうしていただけるとありがたいです。じゃあ、設備の方、見せてもらえますか」
「あぁ、そうですね。どうぞこちらへ……」
そして俺たちは学校内の設備見学へ向かう。
と言っても、俺は通ってたので大体知っているから、主に雹奈のための見学だな。
ただ、多少入れ替えとか新規に入った設備もあったので俺にとっても意味はあった。
それから、応接室に戻ってきて、
「では、授業の前にお呼びしますので、ここでお待ちを。授業を担当する私ではなく山田麗子という教師ですが、ちょっと今は授業をしているので……。あぁ、授業には私も出ますので、二人で呼びにきますね」
「あれっ……金山先生って社会科教師じゃ……」
俺が思い出して尋ねると、彼は答える。
「ここのところ手が足りないからって実技系にも駆り出されてるんだよ。言ったことなかったか? 俺も一応、冒険者系の教員免許も持ってるからな」
「え、意外な……」
「そうじゃなきゃ、今回の《無色の団》の推薦も難しかっただろうし、取っといてよかったよ」
「なるほど……というか、そういうことは、カナ先って結構戦える……?」
「バカ言うな。冒険者としてはE止まりだぞ、俺は。大学時代に教員免許取るために長期休暇にまねごとを少ししただけだ」
「それでもらえるんですか、教員免許」
「貰えはするが……それで就職しようとしても倍率高すぎて難しいがな。だから俺は社会科教諭として就職したんだ。実技系も担当してるとはいえ、あくまで補助だよ。だから今日も、授業は基本的に山田先生が主体になる」
「ははぁ……」
「まぁ、お前も冒険者に行き詰まったら教員免許取ってみてもいいかもしれないぞ。D級まで行けば普通にどこでも実技系科目の教諭として雇ってもらえるからな」
「D級で……」
「D級まで上がればもう教師するより冒険者してた方が儲かる。普通はならんから、取り合いだ。山田先生はそのD級だそうだから、かなり珍しいが……」
「へぇ……」
そこまで話したところで、チャイムがなり、カナ先は慌てて、
「おっと、まずい。俺も授業があるんだ。では、白宮さん、天沢さん、後ほど……」
そう言って去っていった。
「いい先生よね」
雹奈がしまった扉の方を見ながらそう言う。
「まぁな。しかし意外だった。実技系も教えられるとは……」
「冒険者は割と引退後、潰しが効くのよねぇ。どうしても、現代は冒険者ありきの社会だし」
「俺も、もし今みたいな力がなくてもなんとかなったのかな……」
スキルはなかったが、一応、冒険者高校で学んだのだ。
どこかに拾ってもらえた可能性は……。
「流石に一度も活動してなければ厳しかったでしょうね。E級に上がっても激戦って話だったでしょ、さっき」
「あぁ、そうか……世知辛い世の中だな……」
「でもいいじゃない。今は、こうして立派な冒険者なんだから。授業も立派にこなしましょう」
「そうできるといいなぁ……」
******
後書きです。
今年一年、本当にありがとうございました。
毎日更新休まず続けられたので、良かったです。
来年も頑張っていきますので、よろしくお願いします。
新作とか何か投稿するかもしれませんので、もしよろしければそちらもどうぞよろしくお願いします。
ではみなさま、良いお年を。
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