第353話 結論
「やっぱり、売った方がいいんじゃない? 何億よ!」
美佳が欲に染まった目でそう言うが、
「……キュ〜……」
「霙ちゃん……ごめんごめん! そうよね、この卵って、霙ちゃんの仲間になるのよね……だったら、誰かが孵した方がきっと、いいわよね……!!」
そう言って霙を抱きしめてくるくる回る。
……まぁ、確かに、そういう風に考えることもできるか。
そもそも、意外だったのは霙がこの卵について何か感情を表したところだな。
霙も本当に美佳の言った通り、仲間が生まれる可能性のある物体だと理解しているのだろうか?
賢いからそれくらいのことは分かってるか……。
もしくは、単純に自分が倒した敵からドロップしたものなので、所有欲があるだけとか。
……いや、他の魔物を倒した時に出たドロップ品の数々には特に興味を示していなかったので、その可能性は低そうだな。
やはり、仲間が、という方がありそうだ。
「……つっても、これかなり魔力を注がないと孵らないんだろ? 創が霙を孵した時なんて、何ヶ月もかかってるじゃないか。流石にそれほどの魔力の余裕は俺たちにはないぜ」
慎が言う。
「そういやその問題もあったな……俺は魔力を周囲から集めたり出来るからそこまで大変じゃなかったけど、普通にやるならそれは出来ないか」
「お前は魔力の扱いに関しては異常だからな……多分だけど、卵に注ぐときもロスとかもなかったんじゃないか? 俺たちには流石にそうはいかないって」
この意見に、静さんが、
「……おそらくですが、創さんが孵した時の霙ちゃんは、《神魔の卵》だったわけで、必要な魔力量も桁違いに多かったと思われますから……ですが、これは《伯魔の卵》。そこまでではないと。ですけど、それでも上から数えた方が早いくらいの格の卵と考えると……魔力量の問題はやはり少しはあるでしょうね」
そう言ったので、慎も頷いて、
「そうでしょう? 俺としちゃ、素直に雹菜さんが使えばいいんじゃないかと思いますよ。霙だって、仲間が欲しいんでしょう? なら創と長く一緒にいるだろう雹菜さんが使うのが一番、霙のためにもなりそうですし」
「えっ、私? でも……」
「何か遠慮するところでもあるんですか?」
「《従魔の卵》だからね。従魔がかなりの戦力になりそうなことは、霙で分かったから、慎くんとか美佳とか、他のメンバーに孵してもらった方がみんなの身の安全になるんじゃないかと思ってたのよ。だから私がってのは、最初から考えてなかったわ」
「あぁ……なるほど。でも今はみんな、戦力的には問題ないですし。むしろ、卵に魔力を注いで、万全でいられない方が危険かもしれませんよ。その点、雹菜さんなら、魔力にも余裕あるでしょう? 迷宮に潜るよりもマスコミの前に出る方が最近多いですし、余った魔力の使い道にもなる」
「そう言われると……でもマスコミ対応は慎くんもそれなりにあると思うけど」
「俺は雹菜さんほどじゃないし、迷宮には毎日潜ってますからね、美佳と。まぁ、そういうことなんで、雹菜さんが使ってくださいよ。美佳もそれでいいよな?」
「ええ、もちろん。あ、でも私たちでも余裕持って扱えそうなランクの《従魔の卵》があったら、その時は孵したいかも。霙ちゃん、こんなに可愛いし」
「キュ〜」
「……まぁ、その時のことはその時考えるってことで。他のみんなにも後で聞いてみるんでしょうけど、似たような意見だと思いますよ」
「そう……? そうね、じゃあ、意見出揃って、誰も異存はないみたいだし、そうしようかしら」
そして、全員に意見を尋ねた結果、満場一致で雹菜が扱うことに決まった。
ただ、美佳みたいにランクの低いものだったら考えたいとも言っていた。
やはり、霙の可愛さはうちのギルドに癒しを与えているらしい。
戦力だってのに、いいのだろうかと言う気がしないでもないが……まぁその上で可愛さもあると言うのならいいのか……。
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