第6話 収穫ゼロ

「……全然ダメじゃん」


 俺は《乗代ダンジョン》の第一階層にある《安全地帯》で、大の字で寝転びながら、そう呟く。

 《安全地帯》とは迷宮の中に存在する、読んで字のごとく安全な地帯のことで、魔物が襲いかかって来たりせず、また罠もない場所のことを言う。

 どんなところにそれがあるのかは迷宮により異なっているが、比較的攻略の進んでいる迷宮については公開されていることが多い。

 この《乗代ダンジョン》もその一つで、特に第一階層についてはマップまで全て公開されている。

 ネットで検索すればすぐに出てくるくらいだ。

 まぁ、迷宮の中では残念ながら一般的な電子機器が何故か起動しないためスマホを見ながら迷宮探索、なんていうわけには中々いかないが、普通に印刷して紙で持って来ればいいだけなので問題ない。

 俺はそれを活用してここまで来たわけだ。

 ちなみに、魔物など出現しない《安全地帯》で何をしているのかといえば、俺の目的であるスキル取得条件を一つ一つ検証しているところだった。

 迷宮外では大半の最下級スキルについて調べきってしまっているが、迷宮の中ではそれをやったことはまだ、なかった。

 だから最も基本的な奴からいくつも試した。

 例えば代表的なスキルである《腕力強化1》だが、これは腕立て伏せを五十回から百回ほど行えば、才能あるものであれば得られる、と言われている。

 幅があるのは、それこそ才能によるからだな。

 スキル取得条件と言うのは、実のところ人によって違うのだ。

 しかし、一般的なレンジというものがあり、それが五十回から百回なのである。

 そしてそれだけこなしても得られないのであれば、才能がないためどれだけ頑張っても無理、ということになる。

 人によって取れるスキルは違うのだな。

 人間は大まかに分けて、戦士系と呼ばれるスキルを取りやすい人間と魔法系スキルが取りやすい人間に分かれると言われている。

 これはどちらかに偏るということで、戦士系スキルを取りやすい人間が、魔法系スキルを一つも取れない、というわけではない。

 ただ、戦士系はどんどん取れるのに、魔法系は一つしか取れない、とかそういうことは普通にある。

 俺の知り合いで言うと、美佳が魔法系と言うことになる。

 ただ、慎に関しては完全な例外で、あいつは非常に特殊な万能型というやつだ。

 これは戦士系魔法系問わず、スキルを取得していくことが出来るタイプで、冒険者になれる才能を持った人間のうちでも、百人に一人、と言われるくらいの才能だ。

 だからこそ、俺とあいつが同じスキル取得条件を満たしても、あいつだけ何でもかんでも取ってしまって、俺はスキルゼロに、なんてことになってしまったのだ。

 あまりにもガンガン取っていくので、嫉妬の感情すら湧いてこないくらいである。

 なんだか笑ってしまった俺を、慎が不思議そうな顔で見つめていたのを覚えている。

 

 それで、俺はどうなのか、といえば言わずもがな。

 戦士系も魔法系もまるで才能がないわけだな

 取得条件が他の人間よりも極めて厳しいという可能性もないではないから、さっきの《腕力強化1》の条件である腕立て伏せを数百回繰り返したが、取れた感じがしない。

 間違いなく取れていないだろう。

 ちなみに、スキルが取れたかどうかだが、基本的には感覚で理解するしかない。

 区役所や市役所に行くと、スキル測定装置と言うのが置いてあり、それを利用して取れたかどうかはっきりと確認は出来るのだが、あれは測定するのに五千円くらいかかるのでまだ学生でしかない俺には正直厳しい。

 それに、スキルを取得できた場合、明らかに今までと腕力が上がったとか、そういうことが分かるので、とりあえずはそれで確認して、確信できたら装置で調べてもらうのが普通だ。

 もちろん、ギルドに所属していれば、ギルドにもスキル測定装置が設置されていて、大体が低廉な価格か、無料で測定してもらえるのでそこで調べればいいが、俺のように就職もさっぱり決まらないような人間がそんなことしてもらえるはずもない。

 だからとにかくスキル取得した感覚を得られることを目指して頑張ってるわけだが、さっぱりなのだ。


「……今日のところは諦めて帰るか……?」


 そんなことを呟いて、起き上がる。

 もう中に入って数時間経っているし、乗代の駅ビルで漫画でも買って帰るか……。

 そんなことを思ったその時。


「……グルァァアァア!!」


 という声が、迷宮の中に響き渡り、ここ《安全地帯》まで届いたのだった。

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