第7話 ある少女の独白
「……どうしてこんなところに、
そんなことを叫びながらも、私は必死に戦っていた。
私……つまりは、冒険者ギルド《白王の静森》所属のB級冒険者、
そもそも、この通称《乗代ダンジョン》と呼ばれる迷宮は、私のようなそれなりの大規模ギルド所属のB級がわざわざ潜るようなところではない。
もちろん完全踏破されている迷宮ではないから、深層まで行けば私でも十分に戦う価値のあるような相手がいるだろうが、そのような場所まではかなり遠い。
それに大体、そういった深層探索については冒険者が一人で行くようなところではなく、複数人でパーティーを組み、じっくりと時間をかけて行うものだ。
私は今日、一人でこの《乗代ダンジョン》に来た。
その理由は、姉である
彼女は私よりも強いA級冒険者であり、ギルド《白王の静森》の複数いる代表冒険者の一人を務める、国内トップクラスの冒険者であるのだが、それだけに顔も名前も売れに売れまくっている。
翻って私の方はそういった姉の名声の影に隠れて、大して顔も知られていないし、冒険者ランクもB級。
しかも、才能があるからではなく、家族の七光でそうなれたにすぎない、と言われていて評価が低い。
だからどこにいても、それほど注目はされない。
そのため、目立つ姉の代わりに、私がここに潜ることになったのだ。
姉は優秀で、嫉妬してしまうほどの才能と能力を持っている人だけど、実際のところ、私と姉の仲は悪くない。
むしろそこそこいい方であり、今日のお願いも素直に頷いた。
と言っても、冒険者同士での貸し借りでタダというものは滅多になく、私もそのうち姉にお願いを一個できる権利をもらった。
国内でもトップクラスのギルドである《白王の静森》の代表冒険者に何か願い事をできる権利、などそう簡単に手に入るものではなく、たとえ姉相手であってもそれは持っていて損をしないものだ。
だから素直に聞いたというのが大きいが……ことここに至って、私はその決断を後悔していた。
それは当然のこと、今目の前にいるこの存在……豚鬼将軍であり、こいつはB級冒険者が複数人いなければ倒せない、化け物である。
もちろん、私一人ではとてもではないが倒すことはできない。
武術も魔術も使いこなす豚鬼将軍に、徐々に私は追い詰められて来ていて、これ以上は無理だ、となってきていた。
こうなれば、出来ることなどほぼない。
と言っても死ぬ気は全くなく、逃げるしかないが。
私は豚鬼将軍の巨大な剣を受け、弾き飛ばすと同時に、踵を返して走り出した。
豚鬼将軍は、強大な膂力を持ち、またその巨体の割に素早いが、B級冒険者でも速度を重視して鍛えてきた私よりかは遅い。
だから、普通に逃げればどうにかなるはずだった。
もちろん、外に出た後は、すぐに乗代の役場の職員に中に《特殊個体》が出現したことを告げなければならないし、その後に投入されるであろう《特殊個体》討伐隊には参加しなければならないだろうが、B級が複数人来れば十分に倒せるのだ。
それが最善のはずだった。
幸い、周囲の空間に他の冒険者たちの気配はない。
いればスキルを使っているはずだから、魔力などの気配が感じらるはずで、けれどそういったものは一切感じられなかった。
それなのに。
「えっ……なんで人がいるの!?」
私が逃げている先、そこには確か、地図上の《安全地帯》があったはずだが、そこに目を見開いてこちらを見ている、一人の少年の姿があったのだ。
ただ、慌てている様子はなく、それで彼が迷宮の《安全地帯》が、《特殊個体》に対しては無力なことがあるということを知らないということを理解した。
だから私は叫ぶ。
「そこのあなた! 逃げなさい! 豚鬼将軍が来ているの!」
どうか、すぐに走り出して。
私はそう願った。
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