第575話 再会
「……本当にいるのかね」
街道を歩きながら、俺がそうつい呟いてしまったのは、別に恨みからとかではない。
だが、竜司からはそう捉えられなかったようで、
「おい、拗ねるなよ。証についてはどうしようもないだろ?」
そう言われてしまう。
「だって、俺が蜥蜴人たちに何を聞いても大した情報が返ってこないの、竜司が尋ねると一発なんだからな……少し落ち込むわ」
それは事実だった。
やはり証の効果は蜥蜴人たちからの好感度的なものらしく、俺は砦内で誰かに何かを聞いても、ろくな話が聞けなかった。
聞けたのは、砦内にある食堂の人気メニューとかそんなものでしかなかった。
けれど竜司たちはあの後も色々と情報を入手していた。
それによると、数日後に蜥蜴人王の命により、《虫の魔物》たちへの侵攻を進めるということだった。
いくつかある砦から戦力を前線に集め、そして今度は《虫の魔物》たちの拠点を攻めようと、そういう話らしかった。
拠点なんかあるんだな、あいつらにも、と思ったが、これについてはワスプに聞くと普通に住処とか村とかあるらしい。
ただし、軍事的な拠点となると《塚》になるだろうと言っていた。
《塚》とは《蟲族》の中でも《蟻支族》が作り上げる堅牢な砦や城のことであり、形は様々だが頑丈かつ作り上げるのが非常に早いのだという。
内部は複雑な洞窟のようになっているため、注意が必要とのことだった。
この情報については、冒険者たちで共有することにした。
流石に一緒に戦った者たちだ。
情報を独占して死んで欲しいとは思っていないからだ。
反対に、竜司たちのような情報を得やすい立場の者たちからも、いろいろな話が聞けたりしたので、その選択は正解だったと言える。
で、そういった情報の中で、いくつかの砦から戦力を集めるという話があったが、その中には当然救世主──つまりは俺たちのところに飛ばされた以外の冒険者たちも含まれるだろうということだった。
だからこのまま前線に行けば雹菜に会えるはず、なのだが……。
「……お、見えてきたぞ、創」
そう言って先を指し示す竜司。
彼の指差す方向を見ると、そこには木の杭で囲まれた急増の砦のようなものが見えてきた。
あそこが目的地の前線基地なのだろうということは、他の蜥蜴人たちの空気が何か安堵したようなものに感じられることからも分かる。
彼らも、またいつ《虫の魔物》に襲われるかと不安だったのかもしれない。
そのまま特に何も起こることなく、俺たちは前線基地の中に入っていく。
すると、そこには蜥蜴人兵士達の他、冒険者達の姿もあった。
俺たちの中からも、そこに知り合いの顔を見つけた者たちがいて、列から離れていく。
「お、俺のパーティーメンバーもいたぜ。創、じゃ、俺はこの辺で。また後で会おうぜ」
「あぁ、竜司。またな」
そして去っていく。
一人残されてしまった俺は俺で、雹菜の顔を探すした……そして。
「あっ、創!」
向こう側に一際目立つ容姿の雹菜が手を振っている様子が見えた。
俺はそちらに走っていく。
「雹菜!!」
そして合流し、そのままの勢いで抱きしめた。
抱きしめてしまった。
この行動を締まった、と思った時には遅かった。
周囲から驚きと、嫉妬の視線を向けられていることに気づいた時には。
「……早まったかも」
俺がそう呟くと、雹菜は、
「まぁ、遅かれ早かればれるんだし、いいんじゃない?」
そう言ったが、俺はまだそこまで豪胆にはなれなかった……。
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