第576話 情報共有

「まぁ、それはそれとして、だ」


 俺がそう呟いて雹菜の体を引き剥がす。

 雹菜は若干不満そうな顔をしていたが、別にこういうことは人目につかないところでやればいいので…

…。

 それに、雹菜も流石にふざけている場合ではないなとすぐに頭を切り替えてくれたようで、


「そうね、まずは現状把握かしら」


 そう言って、何があったのかを話してくれた。

 やはりというべきか、強制転移させられた後は、俺たちと同じような状況に陥っていたらしい。

 ただ、雹菜が飛ばされた砦を襲った《虫の魔物》は俺たちの砦を襲ったものとは種類が結構違っていた。

 特に、砦内部に地下から入り込むようなものはいなかったようだ。

 あれは俺たちが守った砦特有の脅威だったというわけか。

 それだけの竜司達のもらった証の貴重さが際立つな。

 雹菜達の方では特にそう言った別枠の褒賞のようなものはなかったらしいからだ。

 特に蜥蜴人兵士達との仲が深まった、みたいなこともないようである。

 もちろん、俺の方も雹菜にあったことを話した。

 加えて、


「……創〜!」

  

 と遠くの方から声が聞こえてきて振り返ると、そこにはワスプがいた。

 ここに入る前に、この《前線基地》の周囲の地形とか安全とかが気になったので、偵察してくるように頼んでいたのだ。

 それが終わったらしい。

 雹菜はワスプをみて一瞬驚いていたが、すぐに、


「まぁ……創だものね。いつも誰かを仲間にして連れてくるんだから……この子は……蜂の《蟲族》?」


 と推測して言ってくる。

 

「よく分かるな……いや、俺のいつもの行動のせいか」


「そうよ」


 そんな風に話し合う俺たちにワスプは自然と入ってきて、


「ワスプだよ。君が雹菜? 話は聞いているよ」


 と言ってくる.

 ワスプには仲間になってもらった手前、ギルドメンバーのことはしっかりと説明していた。


「あら、ちゃんと会話してくれるのね……というのも失礼かしら」


「ううん。《蟲族》は大抵、蜥蜴人族にも君達にもまともに話さないように指示されているから。僕はそういうのから解放されたからね」


「指示……? 詳しい話を聞かせてくれる?」


「もちろん」


 そしてワスプは《蟲族》周りについて俺に話してくれた情報を雹菜にも語った。

 雹菜はそれを難しそうな表情で聞いていたが、最後には納得したように頷いていた。


「蜥蜴人王が《蟲族》が対話には一切応じないって話してたけど、そういうことなら筋が通るわね。でも、《蟲王》の支配から解放されると、こうしてちゃんと話せる相手になる……」


「全員がそうとは言わないよ。中には喜んで《蟲王》に従っている《蟲族》も当然いる。僕はそうじゃなかったし、同じような考えの《蟲族》もそれなりにいるってだけの話さ」


「まぁ、色々な考えをもっている《蟲族》がいるというのは、人間も個人で考えが違うことを考えれば同じことよね……そういえば、こっちだと《蟲馬》をテイムした人間がいたわ。あれは《蟲王》に支配されてはいないの?」

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