第269話 効果
ーーザシュッ!
と、いい音を立てた後、それ《・・》は、ぐらり、とバランスを崩して倒れた。
轟音が鳴り響き、そして、それを成した人物が俺たちの方に振り返る。
その表情はあっけに取られたような、今自分が成したことが信じられないような、そんな少しばかり滑稽な表情だった。
実際、俺もかなり驚いているし、俺の隣に立って同じ場面を見ていたミリアも同様のようだ。
少しして、やっと事態をしっかりと認識したエリザが俺たちの方に駆け寄ってきて、嬉しそうに叫ぶ。
「……すごいぞっ! これはすごい!! 全く私の実力ではないみたいだ!!」
「流石にエリザの実力ではあると言ってもいいとは思うけど……」
俺がそう言うと、エリザは首を横に振って反論してくる。
「そんなわけがない! 今倒した魔物は、
そう、エリザがたった今倒した魔物は、石魔導人形だった。
彼女自身が、裏技を使えば何とか倒せることもある、と言っていたギリギリの魔物。
しかしそれを今、エリザは全く苦戦することなく倒してしまったのだ。
ダメージを負わずに、しかも一撃で、である。
「……そこまで言われると……まぁ、補助魔術かけた甲斐あったな」
「甲斐があったも何も、全て補助魔術のお陰だぞ……ミリアの補助魔術もかなりのものだが、言っては悪いがハジメのそれとは比べ物にならない」
少し心苦しそうに言ったエリザだが、これにミリアは首を横に振って、
「ううん、全然いいよ。というか、これは補助魔術って言っていいのかな? 補助魔術って、あくまでも補助であって、全く別次元の強さにしてしまう魔術じゃないんだけど……」
微妙な表情でそう言った。
俺はそれに、
「……動き自体はエリザのものだったし、全く別ということはないんじゃないか?」
そう言うも、エリザは、
「動きはそうかもしれないが、体の反応そのものが二倍、もしくは三倍になっていたような感覚すらあったぞ。これは全く別と言っていいだろう。こんなこと、他の補助魔術師の誰にも出来ん……そうだな、ミリア?」
「宮廷魔術師にだって出来ないでしょうね。まぁ、余程たくさんの供物を捧げて、外法に手を出して、とかなら不可能とまでは言わないけれど……その後の代償とか考えると恐ろしくて無理だわ。でも、今のエリザには……何も問題はなさそうに見える。もう補助魔術、解けているのよね?」
「あぁ、さっきな。だが体の調子はすこぶるいいぞ。それに、あの速度、力で動いてみて……今まで頭打ちかもと思っていた強さの、先が見えたような気すらした。いい経験をさせてもらったとも思う」
「そんな、大袈裟だって……」
「いやいや、あれはそれだけ素晴らしい力だ……しかしだからこそ恐ろしいな。他の者が同じような力を使えてしまったら、戦闘の常識全てが変わるぞ」
「それは私も怖いわね……私の補助魔術、無価値になっちゃう……」
二人揃ってそんなことを言うので、俺は慌てて言う。
「いやいや、大丈夫だって。まず魔力が見えないとどうしようもないからな。それに……なんて言うかな。魔力を操るについて、かなりの器用さがないと無理だと思う」
《ステータスプレート》のことは大まかには説明してあるのでそんな言い方になるが、数値の意味とかを二人は感覚的に理解していないため、俺の数値の異常さを分かっていない。
だからこんな説明の方がいいかと思った。
「それならいいんだが……」
「でも、器用になれば、同じようなことが私にも出来るんですか?」
ミリアが聞いてきたので俺は答える。
「俺と同じくらいに器用になれれば、多分……でも、その上で魔力を見れないといけないしな。なかなか厳しい条件だろ?」
「確かに。そんな人がそうそういるとも思えませんし……心配しすぎることもなさそうですね」
「あぁ」
「……まぁ、そういうことなら安心しておくか。しかしこれだけのことが出来るなら、少し欲が出てしまうな」
エリザがそう言ったので俺とミリアが尋ねるような顔をすると、彼女は言った。
「これなら、三人で浅層のボスも倒せるのではないかとな……。ミリアの魔力も、先ほど飲んだ魔力回復薬でだいぶ回復してきたろう?」
「なるほど。でもボスはかなり強いって……」
ミリアがそう言うが、エリザは、
「頭が二つある石魔導人形だな。腕力と耐久力が高いというが……いや、無茶かな」
少し悩んだ様子でそう言った。
でも、確かにさっきの感じだと、少し下の層のボスくらいならいけそうだなと思った。
無茶ならやめておくべきだが、そこまででもないだろう、と。
俺の魔力にも余裕があるし……。
そこまで考えて、俺は言った。
「じゃあ、覗くだけ覗いてみようか。別に入ったら出られなくなるタイプのボス部屋じゃないんだよな?」
これは、浅層であれば大抵がそうであるからこその言葉だった。
これにエリザが頷いたので、じゃあ行ってみるか、と言うことになったのだった。
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