第544話 蟲の術
「はぁぁぁっ!!」
裂帛の気合いを込めて、
狙っているのは首筋。
体のほとんどが硬そうな甲殻で覆われているため、それが最も薄そうな顔まわりこそが弱点だと考えたのだろう。
しかし、《
すぐに甲殻付きの自らの腕を細剣が狙っている場所に滑り込ませ、そして弾く。
「……ぐっ……」
ただし簡単に、とはいかなかったようだ。
衝撃を殺しきれず、ずざざざざ、と地面を滑る。
そしてそれだけ大きな隙を、雹菜が見逃すはずもない。
雹菜は突きの勢いのまま、距離を詰め、今度は斬撃を放つ。
雹菜の持ち味は、何よりもその速さだ。
これを目でおいきれなかったらしい《蟲族》の男は、ガードを取り切れず、頬に切り傷を作った。
それに気づいたらしい男は、急に一瞬、妙な集中を見せ……。
「……
口をプクーっと膨らませ、そこから大きな炎が噴き出してくる。
「あれはなんだ!?」
俺が思わず呟くと、雹菜が氷術で氷の壁を作りながら、
「わからないわ。ただ、魔力系の術ではないわね。別系統かな……精霊術とか、妖術とかみたいに」
そう推測する。
術は、別に魔力を使うものだけしか存在しないと言うわけではないことは、すでに確認されている。
精霊術はその代表だ。
あれは精霊力というのを使うし、他にもそういった特殊な術系スキルというのがある。
そういうものを使える人は少数で、なぜ使えるのかはわかっていないが、才能と言われることが多いな。
特別な素養を持っているからだ、と。
《蟲族》の男のあれも、まさにそういうものなのかもしれない。
少なくとも魔力の動きは感じられなかった。
氷が溶けていき、水になって流れると、《蟲族》の男の火炎も収まる。
「……耐えたか。我が《
《蟲族》の男が構えを崩さずに言う。
それを聞いて俺と雹菜は、
「……おい、自ら《蟲術》っていうんだって教えてくれたぞ」
「意外に単純なのかしら……所詮は虫ってこと?」
とヒソヒソ話す。
しかし向こうはそれほど耳は良くないらしく、
「何をぶつぶつと……まだまだ行くぞ! かくなる上は、我が《
そう叫び、何か体に力を込める。
すると、どちらかというと細身に見えたその肉体が、ボコボコと盛り上がっていき、筋肉質になっていく。
あれが、《蟲技》ってやつなのか?
いや……。
「行くぞ!」
そう言って、《蟲族》の男は地面を踏み切る。
先程までとは比ではない速度だ。
見た目だけ強くなった、というわけではないらしい。
この辺がカードの切り時か、と思った俺は、
「雹菜!」
そう叫ぶと、彼女も頷く。
俺は魔力を操り、雹菜に身体強化の陣術をかける。
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