第220話 これからの予定
「……なぁ、領都ってどんなところなんだ?」
馬車に揺られながら、俺は同乗者に尋ねる。
所狭しと置かれた、商品の入った多くの木箱の隙間に収まっているのは、俺以外に二人。
ミリアとエリザであった。
俺の質問にまず答えたのはエリザで、
「領都か……そうさな、いうまでもなくカーク村と比べれば遥かに都会だよ。家屋もほとんどが煉瓦や石造で、道も敷石があって平坦だ。さまざまな商店や施設が軒を連ねていて……あぁ、そうだ、貴族街なんかもあるな。そちらにはあまり近づかん方がいいだろう」
そんな風に語る。
なるほど、分かりやすいというか、ファンタジー小説に出てくるような、中世風の街並みといったところだろうか。
厳密には本当の中世とは色々と違うらしいけど、例えとしてはそんなものかとなるやつだな。
そもそも魔術がある世界の風景を、地球の歴史上の街並みとどれだけ似てるかを考えても全く同じものなんてあり得ないし、雰囲気でいいだろう。
「村と違うところを言うなら、魔導具もいっぱいありますよ! 大通りには《灯火》の魔導具の街灯も設置されて、夜でも歩きやすいですし。それこそ貴族街の方なんかは、夜中になっても明かりが絶えないので、景色のいいところから見ると綺麗です」
こちらはミリアの台詞である。
「へぇ……なるほどな。高いところって言うと、宿とかか?」
いわゆる夜景の見えるホテル、なんて売り文句の宿泊所がこの世界にあるかどうかは分からないが、すぐに思いついたのがそれだった。
「なんで宿なんだ? いや、貴族や大店の主人が泊まるような高価な宿なら、五階建てくらいのものもあるし、そういうところから見れば確かに見えるだろうが……もしかしてハジメは、以前、そういう生活をしていたのか?」
エリザがそう尋ねてくるのは、彼女も俺の出自、つまりは《異邦人》であることを知っているからだ。
ミリアも同じである。
これには理由があって、カーク村の村長であるグラズが、この二人には明かして常識を教わりながらしばらく過ごした方がいいだろう、と助言を受けたからだ。
この二人は、ミリアはグラズの娘であるし、エリザも村にいるときはほとんどグラズの娘のような感じだったらしく、信用できるらしい。
そもそも《異邦人》という存在自体、伝説的というか、自分がそうだと言ったところで通常は誰も信じないレベルの話らしいので、どこかで会話が聞かれても問題にはならないだろうということだったが。
いるらしいしな。
街中で自分は《異邦人》であって特別な力を持っている、とか言いふらしながら詐欺行為を働くような人間が。
つまり聞かれても詐欺師を疑われるだけで終わるだろうということだ。
官憲に聞かれると色々尋ねられる可能性もあるのでそれについては注意した方がいいだろうということだったが、身分が証明出来ればそれもさして気にせずともいいらしい。
俺の場合、身分なんてないからどうしたものか、と聞けば、グラズがカーク村出身であることを証明する木札をくれた。
そんなもの勝手に出していいのか、と思ったが、カーク村は元々開拓村らしく、その頃に与えられた権限が国からほぼ忘れ去られたような形で残っていて、その中に、新たな村民を迎え入れた場合に住民登録をすることが出来るという権限が村長にあるらしかった。
後でバレるとまずいんじゃないか、と思ったが、今でも他領から難民が来た場合などに便宜的に使われていることもあるらしく、大した問題にはならないということだった。
ありがたい話だが、色々とあの村長と話して思ったのは、あんな……というと失礼かもしれないが、あの規模の村の村長にしては色々、世界情勢とか法制度とかに詳しすぎるような気がした。
村だけ見て文明レベルを判断するのも問題かもしれないが、他の村民とも少し話して思ったのは、そこまで教育レベルが高い感じもなかったからそんなに肌感覚としても間違ってはいないと思う。
何者なんだろうな、あの村長……まぁ、考えても分からないけど。
聞いてもはぐらかされたところあるしな。
助けてくれただけありがたく思っておくか、今は……。
で、その手助けの一つとして、ミリアとエリザがいるわけだが、彼女達は別に俺のためだけに領都にいくというわけではない。
そもそも、二人ともついこないだまで領都にいたわけだが、その理由はミリアが冒険者を目指すための下見、という意味合いが強いらしかった。
とりあえず登録だけして、武具を見繕って、村で荷物など身の回りを整理して、領都に拠点を移す。
そんな流れの中の途中で俺に助けられるような事件が起こったわけだ。
戦えなかったのは、まだ武具を揃えていなかったのと、経験不足のようだ。
それで大丈夫なのかという気もするが、エリザとパーティーを組むつもりであるから問題ない、ということらしい。
そして俺は、そんな二人にくっついて常識を学ぶ予定で……そのため、まず領都に着いたらやることは決まっていた。
それは、冒険者登録である。
すでに冒険者なのに、またやるのはなんか変な気がするが……まぁ世界が違うから、仕方ないと言えば仕方ない。
「……あっ、見えてきましたよ、領都」
幌を開いて外を見てみると、御者の肩越しに大きな街が見えた。
高い石壁に囲まれた街。
「あれが領都ファンベルグか……」
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