第426話 他種族

『……俺たちを、普人と同じように扱ってもらえるのか……』


 ジャドが少し感動したようにそう言う。

 総理が、


「そのつもりですが……それほどのことですか?」


 と尋ねると、ジャドは言う。


『いや、元の世界では、迷宮から出てくる存在をそのように扱うことなどまず、なかったものだからな。もちろん、俺のこの記憶は、俺自身と言うより、他の誰かのものという感覚で、実感があるわけではないが……』


 なるほど、と思う。

 そもそも彼のそういう記憶は、ゴブランにいただろう、彼のコピー元の記憶だろうからだ。

 覚えていても、実感がないというのは、ただの知識とか、本に書いてあるようなものを呼んだくらいの感覚なのかもしれない。

 どこかジャドたち、あの集落のゴブリン達が、純粋で素直に感じられたのは、そういうところに理由があるのだろう。

 まだ物心ついて間もないから。

 それでもかなり理性的で流暢に話すのは、その《記憶》があるからで……かなりアンバランスな存在であるとも言えるが、そこはうまく導けば、良い人類の隣人になりそうな気はした。

 

「そういうものですか……。ただ、我々の国には似たような存在がすでにおりますので、かなり自然な流れではあります」


 総理がそう言った。

 これは、梓さんたち、妖人たちのことだろうな。

 いわゆる人類とは別だが、ほぼ同じ知的生命体だ。

 その上、彼女たちは人類と普通に子孫を残せる。

 ……考えてみると、その辺、ゴブリンはどうなんだろうな?

 残せるとして……結構色々考えなければならないことがありそうだが……いや。

 それは一ギルドの人間が考えるべき事ではないか。

 官僚やら議員やらが考えて決めることだろう。

 もちろん、そこにあまりにも問題があったら言うべきことは言わなければならないが。

 冒険者の意見というのを、今の時代の国は無視できない。

 その理由は簡単で、現代社会において資源を運んでくるのが俺たちであるし、また、単純な武力という意味でも無碍に出来るような存在ではないからだ。

 ただ、逆に冒険者も腕っ節だけで国に言うことを聞かせる、ということも出来ない。

 銃を突きつけたって命令を聞かない人間はいるし、また向こう側だって懐に銃を持っているかもしれないからだ。

 その辺りが駆け引きなのは、いつの時代でも同じだな。


『同じ存在?」


「ええ、妖人、という、あなた方のいう普人とは異なる種族がすでにおりますので。それと準じた扱いになるということです」


『なるほど……』


 頷くジャドだったが、ここで雹菜が総理に尋ねる。


「妖人は今まで、世間に非公開でしたけど、これからはどうされるのですか?」


 確かにそれはそうだ。

 非公開の割に、妖人たちはバイタリティが凄くて、普通に耳や尻尾を出してその辺を歩いていたりする。

 アンテナショップまで普通に出してる奴らだからな。

 梓さんなど、巫女服姿でのじゃロリ口調で普通に東京をうろうろしている。

 堂々としすぎて、誰も気にしないのだ。

 だから、ほとんどコスプレだと思われているが、最近少しずつ変化も出てきている。

 ネットの掲示板などを見ると不思議に思い始めている人たちが増えているのだ。

 ただ、その大半が好意的な意見ばかりなのが日本らしくはあった。

 それでも本当に他種族で、俺たちのスキルや術とは違う、また別の体系の技術を持っているという話が公開されたらどうなるのか、難しいところだが……。

 そういう色々を含めて雹菜の疑問に、総理は答える。


「そちらも徐々に公開していくことになるだろうな。実のところ、日本では妖人くらいだが、他国でも他種族……というかな、そういう存在は確認されている。やはり公表はされていないが。そちらも、徐々にという感じだな……」

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