第425話 ゴブリンの扱い
「……ようこそいらっしゃいました、総理」
応接室で待っていると、平賀慶次総理がSPに囲まれて入ってくる。
ただ、総理はそのSPたちに、
「君たちはすまないが、外で待っていてくれ」
そう言った後、応接室の扉を閉める。
慌てるSPたちだったが、総理の視線には抗えなかったようだ。
諦めて、ドアの前に立つことにしたらしい。
それから、総理は改めて向き直り、雹菜に、
「あぁ、久しぶりだね、白宮くん……いや、白宮代表、と呼ぶべきか。今では《無色の団》の名前は日本中で知られているのだから」
そう言った。
ちなみに、俺と黒田さんも立ち上がっている。
ジャドは少し困惑していたが、俺たちの動きを見て同じように立つことにしたらしい。
そういうところに、やはり迷宮のゴブリンとは異なる明確な知性が感じられた。
「うちの名前が知れ渡るようになったきっかけは、総理が発端ですから……それよりも、どうぞ。おかけください」
雹菜が席を薦めるが、その前に総理は、
「……この、方、と言えばいいのか……このゴブリンの人が、そうだ、ということで構わないのかな? 握手などしていただけるか……?」
とまずジャドに近づいた。
その様子にはゴブリンに対する怯えなどは全く感じられず、むしろ好意的な感情だけが仕草に宿っている。
なるほど、長期政権を築く人の胆力というものを感じた。
普通なら、いくら安全だと言われていても、今の段階でいきなりゴブリンに対してこれほど自然に近づくのは難しいからだ。
ジリジリと近づき、恐る恐る手を出し……なんてことになるだろう、凡百の政治家くらいでは。
それか、席を薦められた時点で、偉そうにまずドサリと腰掛けるか。
そういうことをしなかった、というのは礼儀という意味でも、ジャドに対する印象はいいだろう。
実際、ジャドは、黒田さんから通訳されて、おずおずと手を差し出し、
『……ジャドという。貴方が話に聞く普人の政府の責任者か。しっかりした人のようで、嬉しい』
そう言った。
総理はジャドから明確にそのような返答が返ってきたことに驚きつつも頷き、
「いえ、こちらこそお会いできて嬉しいです。今日は実りある話し合いになるよう、努力させていただきます」
丁寧にそう言ったのだった。
******
それから、大雑把に、俺たちが先ほど話していたようなことを尋ね、ただ、ジャドが人間をこの世界でも殺害しているだろう、ということは伏せて、総理に伝えれられた。
総理は聞き上手で、それは人間のみならずゴブリンにも適用されるようで、ジャドの話を俺たちよりもかなり上手く引き出していたように思う。
やはり総理にまでなれる政治家というのはそういう能力が高くなければならないのだろう。
たまに、なぜこいつが、ということもあるから、運だけの人間もいるだろうが、平賀総理はそうではない。
「……なるほど、なるほど。ここまでの話を聞く限り、人間……いや、ゴブリンの言葉で言う、普人か。と、ゴブリンとの共存は十分に可能そうだな」
独り言のように頷いてそう言った総理に、雹菜が尋ねる。
「今後のゴブリンの扱いはどうなりますか? もちろん、大雑把な話で結構ですが……」
「うむ、彼の代理人として動く君たちとしては気になるだろうね。まぁ基本的には人間と変わらない扱いになるだろう。人権が与えられ、国民として、個人として尊重される。もちろん、法律の適用についても平等に行われる。ただ刑法上もそのように扱われるから、当然、犯罪を犯せば人間と同じように処罰される。そんなところだろう」
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