第390話 佳織の頼み
「……お兄ちゃん、今度、迷宮に連れてってくれない?」
久しぶりに実家に帰っていると、妹である佳織から唐突にそんなことを言われた。
今は収入もそれなりにあるため、自分のアパートを借りてはいるが、狭霧高校の実技講習の臨時講師として通うにはここが便利なため、とりあえずいる感じだ。
別に毎日通うわけではないのであれなのだが、俺の部屋が整理されて潰されているというわけでもないし、気楽なものであった。
そして、昨日の模擬戦を終え、あー、疲れたなぁと自室で寝転がっていると、朝っぱらから佳織が突入してきて、そんなことを言い出したのだった。
「迷宮に? いや……急にどうした」
今までそんなこと言われた記憶はないから、少し驚いた。
まぁ、そもそも以前、俺がここを拠点にしてた頃は俺も高校生だし、佳織だって別に冒険者を目指してるなんて話は一言もしてなかったから、当然と言えば当然だが。
佳織は俺に言う。
「急じゃないよ! 昨日の試合見たら……こう、思うじゃない!」
「思う?」
「ほら、稽古つけて欲しいとか、迷宮での立ち回りをもっと教えて欲しいとか!」
「あぁ……大和くんも似たようなこと言ってたなぁ。インターンに誘っておいたけど、いいよな?」
「え!? 私そんな話聞いてないけど!? まだインターンを入れてくれるギルドも決まってないのに」
「あれ? 雹菜から聞いてるもんだとばっかり……まぁ、多分うちは立候補するはずだから、そうなったら来るといい……」
「お兄ちゃん……」
俺の言葉に、なぜか佳織は呆れたような表情で頭を抱える。
俺が首を傾げて、
「なんだよ、どうかしたのか?」
そう尋ねると、佳織はその表情の理由を語った。
「《無色の団》がインターン受け入れなんてやったら、今のうちの高校の状態だと、速攻枠が埋まるというか、応募が殺到するよ……」
「え? なんで……」
「だから、私や大和と同じ理由でしょ。昨日の試合を見たら誰だって……」
「……そうか? なんかヒートアップしすぎて、荒っぽくなりすぎた気がしてたんだが。いやだろ、あんな流れ弾が跳んできそうな職場」
俺も雹菜も、出力は抑えていたにしろ、最近は模擬戦などあまり出来なかったため、必要以上に盛り上がってしまった。
結果として結界に結構な負担をかけてしまったわけで……。
まぁ、後で調べてみた結果、故障などはなかったようで安心したが。
故障してたらうちの星宮家の御曹司のコネでも使うことになってたかもしれないからな……。
あれは星宮製だったし、修理くらいすぐにしてくれるだろう。
実際、うちのギルドにある施設のほとんどは星宮製で、メンテなんかも樹を通して親族価格で頼めてるから……。
俺の言葉に、佳織は言う。
「流れ弾なんて。あの戦いがしっかりと制御されて行われたものだってことは、みんな分かってるよ。それに、もし仮にそうだとしても、みんな冒険者目指して狭霧高校にいるんだからね。出来るだけ強い人のところで経験を積みたいって、みんな考えるよ、普通」
「確かに、それもそうか……? うーんでも、そうなると大和くんと佳織の受け入れは確実とは言えないのかな? 雹菜が自分の母校からも受け入れるつもりだって言ってたし、全部で……まぁ多くても五人か六人が限界だろうしなぁ」
「雹菜さんの母校って、王華から? ってことは、うちからは二人くらいしか無理!?」
「いや、どうだろ。まだそこまで詳しく相談してないから……。まぁなんか分かったら教えるよ。知り合いだからって贔屓も出来ないから、公平な範囲でな」
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