第96話 ドロップ品と雹菜が現れた事情

「……これは、杖か」


 宝箱をぱかり、と開くとそこには杖が入っていた。

 精緻な装飾などはほとんどない、質素で無骨な杖である。 


「そうね……大きさは違うけれど《オーガ大神官》が持っていたものと見た目は同じね。効力も同じ……かしら」


 《オーガ大神官》が持っていた杖は、その巨体に比例するような大きさで、普通の人間が持ったら成人男性であっても優に身長を超えてしまうだろうという大きさだった。

 けれど、宝箱に入っていたものは違う。

 ちゃんと人間が使えそうなサイズだ。


「《オーガ大神官》が使ってたやつは……消えてしまってるみたいだし、そうだろうな」


 魔物が持っている武具は、魔物を倒すと消えてしまう時と、そうならない時とがある。

 その条件ははっきりとはしていないため、あの魔物の持っている良さそうな武具が欲しい、どうにか落とさないか、と思ったとしても、運に任せて諦めるしかない。

 ただし、仮に落とさなかったとしても、セカンドチャンスというか……ドロップ品として同じものが出ることがあるので、その辺りは解明したいと誰もが思っているが、今のところは細かで正確な条件は分かっていないのだった。

 まぁ、なんとなくこうではないか、というパターンはあるのだけれどな。

 そのうちの一つが、魔物が持っていたが消えてしまったものと同じ性質のものがドロップ品として出ることが多い、というものだ。

 今回のはまさにそれだろう。


「《オーガ大神官》の持ってた杖の効果って……」


 俺が呟くと、雹菜が少し考えてから言う。


「分からないけど……順当に考えれば術の効力の増加とか?」


 まぁ、それが一番ありうる。

 最後にはオーガらしく拳で挑んできたとはいえ、大神官、というおそらくは術師系の魔物だったのだ。

 あれは術の威力の増加とかそういう方向の機能があった、と考えるのが順当である。

 ただ、俺はそこまで考えて、ハッとする。


「……そういえば、一番最初に《オーガ大神官》は、《オーガファイター》と《オーガグラップラー》を召喚してたな」


 その言葉に、


「……まさか、これで《オーガ》を召喚できる……!?」


 雹菜が目を見開く。

 召喚系統のスキルは存在を確認されている。

 けれど、そのいずれもが大した存在を召喚することが出来ていない。

 スライムとかゴブリンとか、そのレベルだ。

 だからと言って、誰もその将来性とかについて悲観してはいないので、ダメなスキルだとは思われてはいない。

 ただ、まだ十分に育て切れた人間がほとんどいないのは事実だ。

 数える程度の人間だけが、それなりに強力な存在を召喚できる程度にすぎない。

 なのに、だ。

 この杖はオーガクラスの存在を召喚できる可能性があるのだ。

 勿論、ノーマルオーガ程度なら雹菜くらいになると鎧袖一触で倒せてしまうわけだが、少なくとも冒険者でいうなら、C・D級クラスの前衛程度の力はあるとされる。

 それが杖一つで召喚できるなら……欲しがる人間は多いはずだ。

 別に冒険者が持たずとも、それこそ護衛なんかにもちょうどいいだろうし。

 召喚の代償とかがどうなのかはわからないけど。


「……高く売れるか?」


「もし本当にオーガを召喚できるのなら、最低でも数千万出るんじゃないかしら……場合によっては億に乗るでしょうね。ま、鑑定に出さないと細かくはなんとも言えないけど」


「おぉ……!」


「なんだか思いがけない稼ぎになったわね……後は、《オーガ大神官》の素材関係だけど、こっちは正直いくらになるか分からないわ。それに、いろいろ聞かれると面倒くさそうな感じもあるし……私たちで使ってしまった方がいいかもね」


「じゃあ、その方針で行こう……で、そろそろ聞きたいんだが、総理とか、他のメンツとかは……あと、なんで雹菜は突然ここに現れることが……」


「その辺は……あっ、扉が現れたわね。とりあえずここを出てみんなとの合流を目指しながら話しましょう」


「わかった」


 *****


 扉から出ると、そこには通路があった。

 加えて、先ほどまでいた部屋の中とは異なり、周囲の魔力も感知できるようになった。

 その結果、他のメンバー……紬と美柑の居場所もわかったので俺たちは合流を目指して、そちらへ向かって走る。

 走りながら、


「で、いきなり現れたのは、どういうことだ?」


「あぁ、それはね……」


 そこからの雹菜の説明によると、俺と別れた後、飛ばされた先で転職先を選べるようになったのだが、そこにあった《オリジンの従者》と言うものを選択したときに、妙な声が聞こえたという。

 それは、


 《《オリジン》の元へ転移しますか?》

 

 というもので、雹菜はその瞬間、転移する、と意識したらしい。

 すると気づけばあの場所にいたのだという。

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