第95話 二人の力

 ただ、いくら先ほど同じように、と言っても全く同じ事をしたのでは意味がない。

 だからこそ、今度は俺の方が先に攻撃を加えに動く。

 いきなり《穿牙》……というわけには、もちろんいかない。

 魔力の消費も大きいし、隙も小さくは無いからだ。

 特に攻撃を加えた後、それほど長くはないが硬直するように体が動かなくなる瞬間がある。

 《オーガファイター》や《オーガグラップラー》相手であれば、それでもなんとかはなったし、《穿牙》以外に決定打となるような攻撃の選択肢がなかったから仕方が無かった。

 しかし今は違う。

 一撃で倒しきる必要が無く、あくまで削れば良いのだ。

 俺が剣を横薙ぎにすると、《オーガ大神官》はそれを回避しようと後退する。

 俺の後ろからは雹菜が迫っていることを理解しての行動で、やはり高い知能を感じた。

 けれど、スキルなどに対する理解はそれほど深くないのかも知れなかった。

 後ろからスキル発動の気配……魔力の揺らめきを感じる。

 そしてそれは地面を走り、《オーガ大神官》が下がった先の地面を基点にして氷の槍となって表れる。

 思いがけず、足裏から甲までを氷の槍に貫かれる格好となった《オーガ大神官》だが、痛みに苦しむような表情を見せることなく、ただ足を軽く振って氷の槍を破壊する。

 さらに、先ほどのような緑色の淡い光が彼を包む……治癒術系のスキルだろう。

 だが、


「そうそう何度も回復させてたまるかよ!」


 俺が急いで剣を振りかぶり、地面を踏み切ると、《オーガ大神官》はそれに気付いたように、その場所から逃げた。

 それと同時に、治癒系スキルの光は霧散し、消える。

 どうやら人間のそれと同じようにそれなりの集中が必要なようで、延々といつでも、動きながらでも使っていられる、というわけではないらしい。

 

「……押し込む!」


 雹菜が俺を追い抜いて、《オーガ大神官》の方へと向かう。

 彼女の握る細剣による刺突が、《オーガ大神官》の腹部へと突き刺さった。

 それほど深い、というわけではなかったが、それでも彼女は言葉通り《オーガ大神官》の体をそのまま壁際まで押し込んでいった。

 あの膂力の化け物を、腕力で……いや、雹菜のB級冒険者としてのステータスもあるだろうが、《オーガ大神官》の足の傷が、踏ん張りを利かなくさせているのも大きいだろう。

 ここまで考えての攻撃だったわけだ。

 そして、ここが最大のチャンスであるのは言うまでもなかった。

 俺もまた、アーツを発動させるべく、走りながら集中し……そして、


「……《穿牙》!!」


 《オーガ大神官》の胸元めがけて、アーツ《穿牙》を発動させる。

 俺の剣は《オーガ大神官》の胸に触れ、強い抵抗を感じる。

 弾かれるか……?

 つい、そう思ってしまったが、


「……いけるわ!」


 と、雹菜が叫ぶと同時に、なぜか体に力が湧いてきた。

 冷たい氷のような魔力が体に満たされ、俺の腕力が強化されるような感じがし……。


「……刺されぇぇぇぇ!!!」


 裂帛の気合いと共に更に力を剣に込めると、そのまま《オーガ大神官》の胸元深く、剣は進んでいった。

 それでもまだ《オーガ大神官》はその動きを止める様子が見えなかったが、


「えっ?」


 雹菜の若干の困惑の声がし、よく見てみると《オーガ大神官》の胸元から、パキパキと体が凍り出しているのが見えた。

 流石にこれには《オーガ大神官》も危機を感じたのか、どうにか俺たちの剣を抜こうとあがこうとするも、俺も雹菜も《オーガ大神官》の体を押さえ込んで離さなかった。

 そして……。


「あ、が……がっ……!」


 《オーガ大神官》の頭部部分まで完全に凍り付くと、俺と雹菜は顔を見合わせた後、剣を抜いた。

 その瞬間、バキバキバキッ!という音がし、《オーガ大神官》の体は完全に砕け散ったのだった。


「……なんとか、勝てた……」


 と倒れ込みそうになる俺だったが、そんな俺に雹菜が慌てて言う。


「創! 魔力の回収!」


 それに俺は、そうだった、と我に返り、たったいま砕けた《オーガ大神官》が存在した部分にまだ霧散せずにある、魔力の塊を自分の体の中に回収していった。

 加えて、まだ遺骸がその辺に転がっている取り巻き達のそれも同様に、だ。

 なんとか全ての魔力を回収し終わった後、ふと見ると、


「……ドロップ品、あるわね」


 と、雹菜が呟く。

 そこには宝箱と、倒した《オーガ大神官》の素材と思しきものが落ちていたのだった。

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