第299話 証拠

「……私も一緒に異世界に行けるの?」


 目を見開いて雹菜がそう言う。

 どうやら、異世界に行けるのは《オリジン》である俺の特権か何かで、他の誰もその恩恵に与れないと考えていたらしい。

 しかし俺は言う。


「あぁ。《ステータスプレート》を見るとその表示があるよ。見るか?」


 すると雹菜は頷いたので見せた。

 そして……。


「本当だわ……私たちの《ステータスプレート》にはない機能がたくさんある。《世界》欄? 証拠証拠と言ってたけど、これが一番の証拠ね……こればかりは、誰がどんな風に細工しようとしてもどうにもならないもの……ならないわよね?」


 ふと、梓さんの方を見ながら雹菜が確認する。

 彼女なら確かに、何か方法を知っていそうな気もした。

 しかし梓さんは首を縦に振る。


「もちろん、どうにも出来んとも。そもそもその《ステータスプレート》の仕組みを知らんからのう……調べれば分かるかもしれんが、現状では難しいじゃろう。高度な魔導具が必要になってくるからのう。わしはその辺り、専門ではない。いずれ、この世界の人間たちによって技術が発展すれば、分析できる日もくるじゃろうて」


「……絶対に誰にも分析できないもの、というわけではないのね……これは、うちにも技術部を発足すべきかもしれないわ。その辺は外部に丸投げしてる部分が多かったけど、そろそろうちのギルドの規模なら自前があってもいいしね」


「それは良いのう。その時はわしら妖人からも人を雇ってくれんか? 霊具関係の技術ならそれなりのものがある。魔導具と理念は異なるものの、構造的には似ているところが多いし、また組み合わせることで他にはないものも作れるじゃろうて」


「ありがたい話ね。まぁ、支部の事務員でもお世話になってるけど。うちのギルドは秘密が多すぎるから、抱える人員も下手な人が雇えないのよね……」


 ため息をつく雹菜だった。

 それから、


「あ、そういえば今更な話だけど、ステータスの数字、めちゃくちゃじゃない? しかもアーツが増えているし」


 と俺のステータスについて言及する。

 ちなみに今の俺のステータスはこうだ。


 名前:天沢 創

 年齢:18

 称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》《総理(日本)の救出者》《アイドルのマネージャー》《異邦人》……

 職業:魔術師《地球》

 腕力:141(+27)

 魔力:230(+42)

 耐久力:216(+34)

 敏捷:193(+50)

 器用:5657(+2245)

 精神力:5335(+1456)

 保有スキル:無し

 保有アーツ:《天沢流魔術》《天沢流剣術》《マグスガルド陣術》


 言わずもがなだが、全ての数値が増えている。

 案の定というべきか、器用と精神力の数値の伸びはもはや恒例行事と言ってもいいだろう。

 あと、特殊なところでアーツに増えている《マグスガルド陣術》というのは、向こう……つまりは異世界の魔術のことだろう。

 この表示を見たとき、俺は首を傾げた。

 向こうの世界の人間は魔術魔術、と言っていたが、実際には魔術ではなくて陣術というのが正しい名称だということだろうか?

 確かにやっていることは《陣》を描いて魔力を注ぎ込み発動させる、というものなので陣術の名称が合っているような気はする。

 こっちの世界のスキルを模倣している場合、やっていることは近いが、図形的な陣のみを描いているというより、身体強化などで流す魔力の流れ方は血管とか経絡系とかそういうものに近い感じがするから、別物と言われるとそんな気もした。

 炎術みたいなものの場合も、陣というより、万物を形作る何かを魔力で代用させているような感覚が近い。

 ……まぁ、この辺を考えすぎても今はまだわからないから、この辺にしておくか。


 ともあれ、俺は雹菜に言う。


「アーツは向こうの世界の魔術みたいなものを覚えたから、それだと思う。器用とか精神力、それに他のステータスの数値は、ちゃんと向こうで魔物倒した時にも魔力を吸収してたからな。まぁ、器用と精神以外の伸びは、相変わらず微妙だけど」


「……他のステータスも数ヶ月でこれくらいの伸びなら、十分だけどね。器用と精神が異常なだけよ」


 雹菜はどこか呆れたようにそう言ったのだった。

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