第149話 対ドラゴンゾンビ
まだ、動かない。
ここまで近づいても、まだ……いや。
「……グルガァァァァ!!」
俺たちは遂に境界線を越えたらしい。
ドラゴンゾンビが、吠えた。
あの骨と皮しかない腐れ落ちた肉体で、一体どうやって鳴き声を出しているのだろうと場違いな疑問を覚えてしまうが、そんなことに気を取られている暇はない。
「……来るぞ!」
そう叫んだのは、カズだ。
重戦士らしい大きな盾を構え、彼は下半身に力を入れた。
巧も同じだ。
俺と、樹の前に立って……。
「大丈夫なのか!?」
思わず尋ねてしまうが、二人は口の端に笑みを浮かべるだけで答える。
そしてその瞬間、ドラゴンゾンビの口に強力な力が集約し、そして……放たれた。
「ブレス……!!」
それは、竜族が持つスキルのうちでも、最も強力なものと言われるもの。
ドラゴンゾンビの場合、生前、最も得意としていた属性のそれが放たれるというが、かのドラゴンゾンビが放ったそれは……。
「……
即座に樹が治癒系のスキルを発動する。
それは状態異常に対して大きな効果を持つもの。
本来、かなりの魔力を消費すると言われるもので、実際、樹の体を駆け巡る魔力の量は相当なものだ。
しかし、樹はそれを少しも負担に感じている様子もなく、軽く放つのだ。
彼は……いや、彼女か?
どっちだか分からないが、今更ながらに不思議な存在だ。
けれど、今は間違いなくありがたかった。
カズと巧の二人も同様なようで、かなり厳しそうだったその顔には、明るい感情が浮かび始める。
どうやら、確実に耐え切れる自信が湧いたらしい。
実際、どれくらい続いたかわからないブレスは遂に打ち止めとなり……。
「耐え切ってやったぜ……!」
「すぐにはまた放たねぇだろ!」
二人がそう言った。
俺も二人が言うが早いか、二人の背後から前に出て、距離を詰めて剣を振りかぶる。
出来ることなら、その首を落としたいところだが、元が亜竜だと思われるとはいえ、その体高は五メートルはある。
飛び上がってやっと届くかどうかだが……そうした時の隙が怖い。
まずは少しずつ削る必要があるだろう。
そもそも不死系は首を落としただけで動きを止めるとは限らない。
だからその前足から狙った。
「……ギャァ!」
振り下ろした剣はその左前足に命中するが……。
「浅かったな……いや、ここからだ」
切り落とすことを考えたが、思ったよりも堅かった。
やはり、竜族の耐久力というのは腐っても馬鹿にはできないということだろう。
そして、近づいた俺を狙ってその前足が俺に向かって突き出される。
「……危ねぇぜ!」
即座にカズが前に入り、うまく受け流してくれた。
「悪い!」
「構わねぇ! それより、次だ!」
彼の言葉に頷いて、さらに隙を狙っていく。
そこからが、持久戦の始まりだった。
ドラゴンゾンビの攻撃を避け、もしくはカズや巧が弾き、ガードする。
それによってできた隙を俺が狙う。
へばってきた重戦士二人に樹が治癒をかけ、さらにそれを続け……。
「……はぁ、はぁ。そろそろじゃねぇか?」
「あちらさんも、とどめを欲しがってる気がするな」
カズと巧がそう言った。
限界に近い二人の願望もあっただろうが、実際、ドラゴンゾンビの体もまた、俺たちの攻撃によってボロボロになっていた。
前足は砕け、翼は崩れ落ち、首は前に差し出されているような状態だ。
それでいて尚、闘志を失う様子がないことは敵ながらあっぱれという感じだが……。
「……創。終わらせて」
樹がそう言ったので、俺は頷いて、地面を踏み切る。
俺のその動きを確認したドラゴンゾンビはゆるゆると首を動かし、その顎を大きく開いて、口の奥から緑色の光を放とうとする。
しかし……。
「……最後だ!」
俺の剣はそして、その首筋に命中し……。
ーーゴトリ。
と、思ったよりも軽い音を立てて、ドラゴンゾンビの首は落ちたのだった。
それから数秒遅れてドラゴンゾンビの体もボタボタと崩れ落ち……。
「……俺たちの勝ちだな」
そうして、俺たちはハイタッチをしたのだった。
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