第150話 戦いを終えて

 倒した後、素早くドロップ品や宝箱を回収して、俺たちはボス部屋を後にするべく急いだ。

 その際、背後……ボス部屋に入ってきた時の扉の向こうで、賞賛の拍手を送る蓮たちパーティーの姿が見えた。

 俺たちは彼らに向かって手を上げ、同時に彼らの健闘を祈りつつ、足早にその場を去る。

 ボス部屋は、その場所に人がいる限り、次のポップが湧くのに時間がかかる。

 もちろん、永遠に、というわけではなく、ある程度の時間が過ぎればその場にいようと問答無用で出現してくるが、誰もいない時の方が早く次のボスが復活することはどの迷宮でも共通していた。

 この《瘴毒の穴蔵》第三階層だと、およそ十分刻みだ、というのはカズたちの話だ。

 流石に全ての迷宮、全ての階層のリポップ時間など覚えているはずもないが、彼らはここによく潜ることがあるらしく、だからこそ詳しいようだった。

 ともあれ……そんなわけで俺たちは、その先……第四階層へと続く階段へと向かい、降りた。

 そこで、


「…… ゲハッ……」


「ちょっと……もう、限界だ……悪いが、十分でいい。休ませてくれ……」


 カズと巧が、地面に崩れ落ちる。

 さっきまでは平気そうだったが、どうやら虚勢だったようだ。

 加えて、背後に迫る蓮たちに情けないところは見せられない、というのもあっただろう。

 

「……いや、ドラゴンゾンビのブレスをあれだけ受けたんだ。それで済んでるだけマシだろ」


 俺はそう言った。

 これは別に慰めというわけではなく、心からの気持ちだった。

 重戦士とはいえ、F級であれほどの魔物のブレスを何度も受け切るというのは並大抵のことではない。

 今いるギルドからは、E級昇格試験に何度も落ちていることからクビ間近だという話だったが、十分にベテラン冒険者としてやっていけるレベルだ。

 心根も……まぁ、樹に絡む程度には荒んではいたけれど、あれもあの時だけだろう。

 誰にだって、虫の居所が悪い時は、ある。

 俺だってスキルが何も得られない時は……もう、何もかも諦めたくて、やけっぱちになりかけていた瞬間がないとはとてもではないが言えないから。


「……二人とも、頑張りすぎだよ……今、治癒かけるから、横になってて」


 樹が、地面に崩れ落ちた二人の元へと近づき、膝をついてそんなことを言いながら、治癒術をかけていく。

 そんな樹に、二人は言う。


「……悪いな。それと今更だが……樹、お前のその力は、ここを出ても黙っておくぜ」


「治癒術師なんて引っ張りだこだからなぁ……それに、状態異常からの回復もできるのは流石に……どこで身につけたか、なんて聞かねぇが、気をつけろ。俺たちみたいなのばかりじゃねぇぞ、冒険者は」


「……二人とも。でも二人も結構酷かったからね? 最初は、だけど」


「それは確かにな。悪かったよ……しかし、普通の治癒術師じゃねぇよな? 俺たちもそれなりに知ってはいるが、麻痺や毒を一瞬で治せるのは、かなり珍しいぞ。ポーション系でも相当高価なものだけだしな」


 カズがそう言った。


「まぁ、その辺りは特殊な職業による、ってとこかな。言ってもいいんだけど……」


「いや、そいつは黙っておけ。うちのギルドには内心看破系のスキル持ってる奴がいるからな。知ってることを尋ねられると隠せる気がしねぇ。まぁ、鑑定系と比べりゃ、万能ではないからうまくやりゃなんとかなるんだが……確実性を考えるとな」


 巧が止める様にそう言った。


「お人好しはどっちなんだか。まぁ、分かったよ。でも、もしも二人が今後、ひどい傷とか、状態異常とか負うことがあったら、遠慮なく連絡してよ? 僕は君たちをもう仲間だと思ってる。だから……」


「あんだけ絡んだのに、どっちがだよ。まぁ、ありがたく受け取っておくわ」


「俺もそうしておこう……っていってもな、今後冒険者続けられるかもまだわからんが……」


 それは、今回の試験に受かるかどうかで全てが決まるからだな。

 だが……。


「おい、俺たちは今回、特殊ボスだろうドラゴンゾンビに、大した被害もなく勝ったんだぞ? 落ちるはずがない!」


 俺はそう言った。

 そう、結果だけ見れば、間違いなくいいはずだ。

 ただ、単純にそうも言えないことは、ここにいる面々はよく理解してるようで、表情は微妙である。

 勝つのが難しい相手に無理に挑んだ、と解釈される可能性もあるからだ。

 俺たちとしてみればそんなつもりはないのだが……まぁ、その辺りは、俺たちから存在を隠匿しつつ、チェックしてただろう試験官の採点次第だな。

 ともあれ、心配するだけ、無駄だ。


「おっと、後、ドロップ品のチェックでもしようか」


 俺が話を変えると、みんなは少し目の色を変える。

 これは試験とは関係ない、俺たちの身入りになるからだった。

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