第462話 記者との会話

「……あの……」


 控えめな様子で記者が俺に話しかけてくる。

 冒険者に対して取材する記者というのは意外にも腰が低いのが少なくない。

 なぜか、と言えば冒険者は全員が一般人などそれこそ片手で物理的に握り潰せる力を持っている化け物だからだ。

 昔で言うなら、拳銃を突きつけられた状態で取材をしているに等しい。

 そんな状況で、強硬な取材は尋常な精神では出来ないと言うことだ。

 ただし、記者の方も冒険者である場合もあり、そのような時の取材姿勢は昔ながらのスタイルになるが。

 でも、俺の目の前にいる中年の記者は、冒険者ではない方のようだな。

 目に多少の怯えというか、緊張が見える。

 実際問題、気の立っている冒険者に無茶な取材をして、ボコボコにされる記者のニュースとかもたまに見るからな。

 そのような場合の冒険者の処遇だが、大体、冒険者の方は軽い罪か、全くの無罪として扱われることが多い。

 これは、記者の取材姿勢に問題があることが多く、加えて冒険者の目的を阻害しているから、正当行為として許される旨の法律が存在しているからだ。

 冒険者は規制が多い存在ではあるけれど、同時に特権も多い。

 だから、ここでこの記者を無視して進んでいっても極端に追いかけられるようなことはないが……。


 そこまで考えて、俺は記者に返答する。


「はい、なんでしょうか?」


 すると記者はほっとした表情で言う。


「ご返答いただき、ありがとうございます。ええと、あちらの方は白宮雹菜さんで合っていますよね? だとすると、貴方は《無色の団》のメンバーの方、ということでよろしいでしょうか?」


 しっかりと事前知識も入れているまともな記者のようだ、とそこで察せる。

 記者の中にはギルド関係のこととか全く知らない状態で取材する奴も少なくないからな。

 ただ、そういうタイプはどこかのタイミングで痛い目に遭うのだが。

 それこそ、興奮している冒険者に弾き飛ばされて全身骨折とかな。

 

「そうですね。天沢創と申します」


「天沢さんですね……」


 言いながらメモを書いている記者。

 レコーダーも持ってるようだが、今確認する用かな?

 記者は続ける。


「質問なのですが、本日はどうしてこの《アドベンチャラードーム》にいらっしゃったのですか? 先ほど、《黒鷹》の賀東さんや《影供》の方々が入っていくのも見まして、何かあったのかと気になっておりまして……」


 どちらのギルドも先に来ているようだ、とそれで理解する。

 約束の時間まではまだ三十分くらいある。

 忙しいメンツだから、ギリギリに来るのかな、と思っていただけに意外だ。

 それにしても……。


「へぇ、そうなんですね。そちらには尋ねなかったのですか?」


 先に来たならそっちに取材した方が確実なような気がするが。

 そう思っての質問だったが、記者は言う。


「それが……どちらのギルドの方も、具体的に言えることは何もないの一点張りで……。《転職の塔》攻略に関することだとまではお話いただけたのですが」


 あぁ、考えてみればそうか。

 俺たちが彼らを呼んだわけだが、彼らは俺たちのことを話すわけにはいかないからな。

 信頼を失っては良くないと考えてくれたのだろう。

 だとすれば、俺たちも話せることはあまりないか。

 自分の能力に関することだから、その辺りを軽く話すことくらいはいいだろうが……それもやめておいた方がいいかな。

 でも、雹菜から一般人の希望になれることを話すくらいは、とも言われてるので、その辺で収めておくか。


「そう言うことでしたら、俺たちからもあまり話せることは……ただ、《転職の塔》攻略に関することだと言うのはその通りですね。レッサードラゴンが倒されたことはご存知ですか?」


「それでしたら、昨日倒されたと発表が……皆さんも参加されたのでしょうか?」


「ええ。その際に色々とありまして、ちょっとした訓練ですね。レッサードラゴンのいた場所の先にはダンジョンがあることもご存知かとは思いますが……」


「なるほど、そこを攻略するための訓練を、と言うことですか。となると、攻略隊の一員と……あぁ、いえ、私の推測で……これ以上のことをお聞きすると天沢さんの立場も悪くなってしまうかもしれませんね。ここまでで大丈夫です」


 記者の方が気を使ってくれ、そこで頭を下げ、一応、と名刺を渡してから離れていった。


「……うん、ちょうどいいんじゃない? あれくらいで」


 いつの間にかミーハーたちの囲みを抜けた雹菜がそう声をかけてくる。


「もっと話してやりたかったけどな。いい記者っぽかったし」


「そうなの? じゃあ迷宮攻略したらインタビューでも受けてあげてもいいかもね。名刺もらってたみたいだし」


「そこまで見てたのか。なら来てくれても……」


「サイン書いてたのよ……魔物相手する方が気が楽だわ」


「そこまでか」


「まあね。それより、さっさと行きましょ。賀東さんたちもう来てるみたいだし、訓練時間長く取れるならその方がいいわ」


「そうだな」

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