第31話 スキルを発動させるには

「わ、私、魔力が見れるなんて今まで話してない……わよね?」


「うーん、そう言われるとどうだったかな。あんまり気に留めてなかったから自信はないけど」


 というのは、俺にとって魔力を見ることができるのは普通の話だからだ。

 どうにも、そんなにいっぱいいるものでもないらしい、というのは最近理解したけれど、スキルゼロの俺が出来ることなのだ。

 この世に同じことが出来る人間が一人もいない、などと自惚れたことを考えるほど、俺は愚かなつもりはなかった。

 実際、雹菜の視線の動きやらなんやらを見る限り、俺と同じもの……つまりは、魔力の動きを視認できているっぽいな、というのは推測できた。

 そしてそうである以上は、やっぱり他にも同じこと出来る人間は普通にいるのだな、という感覚でしかなかった。

 けれど雹菜は、それは天賦の才能だという。

 なるほど、俺にもそういう才能があったのか、という感動は少しはあった。

 だが、それくらいだ。

 そんな俺の、反応の薄さに雹菜は呆れた様子で、


「……触れないようにしてた私が何だか馬鹿みたいじゃないの。こんなことならさっさと言っておくんだったわ」


 とため息をつく。


「何だか申し訳なかったな……そんなに覚悟が必要だったのか?」


 その点については気になる。

 良い才能だと言うのなら、別に持ってると言っても構わないのではないか。

 冒険者として、高い実力があるという裏付けにもなりそうだし。

 まぁ、俺のようなスキルゼロが言ったところで、お前、嘘を言うなよという話になるだろうが、雹菜はB級冒険者なのだ。

 皆、普通に受け入れるだろう。

 そういった意味の質問だった。

 雹菜は頷いて答える。


「必要だったわ。私、このことを話したの、貴方が初めてだもの」


「えっ、良かったのか、それ……お姉さんに……って、あの人に話すのはダメか」


 面白そうなものはおもちゃにしかねない、ということだったことを思い出して俺がそう言うと、雹菜は苦笑して言う。


「妹だろうと、冒険者関係の話になってくるとやっぱり容赦がないから……黙っておく方が無難だわ」


「お気の毒に……まぁ、ともかく、雹菜が魔力視を持ってる、ってのは分かったけど、結局それがどうしたんだ?」


「私が見たものの話をしたくてね。貴方が、豚鬼将軍を倒した時の」


「俺がスキルを使ったって話ならもう聞いたが……でも調べてもやっぱりスキルはない、と」


「ええ、そこまでが前提。でも確かに貴方はスキルを使った。あの時のことをよくよく考えてみると、貴方は……スキルがなくても、スキルを使える、んじゃないかしら……突拍子もないことを言うようだけど、他に答えがないもの」


 これを聞いても、俺は驚かなかった。

 というか、俺も同じことを考えなかったわけじゃないからだ。

 でも、スキルを使おうとしても、使えない。

 スキルスイッチを押そうとしても、それがどこにあるのか、俺には分からない。

 どうやってスキルを使えば良いのか、思いつかなかった。

 あの時、俺は一体どうやって……思い出せないのだ。

 

「仮にそうだとして……一体、方法は? 実は、色々と試したりはしてみたんだ。確か、俺は《上級炎術》を発動させたって話だったろ? だから、どうにかやろうとして……」


「使えなかったのね……でもどういうことをしたの? 詳しく話してみて」


「あ、あぁ……まず、普通にスキルを使ってみようとした」


「魔力を巡らせて、スキルスイッチを押そうとしたわけね」


「でも魔力は操れても、俺にはスキルスイッチなんて分からないから……ダメでさ。じゃあ、それが必要ないとしてどうやるか考えてみたんだ。俺には魔力が見える。だから、実際に《上級炎術》を使うときの魔力の動きをトレースすれば良いんじゃないかと思って、やってもみたんだが……」


「それも、ダメだったの?」


「あぁ。何か、こう、いけそうな気はしたんだけど……結局不発というか」


「うーん、意外だわ。私、実はそれが一番良い方法だと思ってたんだけど。貴方が《上級炎術》を使った時、確かに魔力はその動きをしてたし」


「そうなのか? じゃあ、考え方は間違ってないのか? でも……」


「うーん、そうね。スキルが普通、発動しない時は……魔力が足りない時なのよね……あっ、そもそも、《上級炎術》を使うための魔力を、創は持ってないんじゃない? でも、あの時は発動させてたわね……あれは……そっか。無理やり、生命力を魔力に置き換えた? 極限状態の冒険者に、稀に起こること、だったわね……つまり……」


 ブツブツと、自分の世界に入り始めた雹菜。

 俺はそれに水を差してはいけないかも、ととりあえず、彼女の考えがまとまるまで黙っていた。

 そして。


「思いついたわ!」


「おっ、おう……で、どうやって……?」


「もっと魔力が必要ないスキルから試してみれば良いんじゃない?」


「あー、でも、学校で皆が使ってるようなのは、いくつか試したけど……」


「たとえば?」


「《下級身体強化》とか《下級炎術》とかだけど」


「最下級は?」


「いや、それもいくつか」


「……いえ、諦めるのは早いわ。とりあえず、私の眼の前で、やって見せて」


「わかったよ……でもがっかりはするなよ?」


「もちろんよ。さぁ!」


 そして、俺は《最下級身体強化》から試してみることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る