第250話 誘い
その後、少しばかりエヴァルーク伯爵と談笑した。
俺に対して色々とぶっちゃけてくれたが、普通に話している限りは確かに、いい人そうだなというのが基本的な印象だった。
勿論、海千山千の貴族なのだろうから、そういった印象すらも操って交渉している、とも考えられるが……まぁ正直あんまり考えすぎるのも面倒なところがある。
そのうち考えなければならない時が来るとしても、今は割といい貴族だ、くらいに思っておくのが精神的にも負担がかからない。
それから、リリア、それにエリザとミリアが俺のことをだいぶ心配していたらしいので、エヴァルーク伯爵が人をやって、途中から彼女たちも会話に加わった。
部屋に入ってくる時に、なぜか実の娘であるリリアが一番緊張していたようだが、俺が比較的リラックスした様子でエヴァルーク伯爵と会話しているところを見て、ホッとしているようだった。
リリアが危惧していた、騙されたりむしられたりする可能性のある貴族、として一番筆頭にいたのは、もしかしたらエヴァルーク伯爵だったのかもしれないな。
だからこそ、可能な限り早めに帰属がどういうものかを伝えたかったとか。
まぁ、その場では聞けなかったから、そのうち聞こうかな、と思った。
それから、途中で俺だけがその場を辞した。
実のところ、魔導具品店で以前見かけた品を取りに行くと約束していて、その時間が迫っていたからだ。
ミリアとエリザはまだリリアと話したいようで、後で戻るということだった。
エヴァルーク伯爵はわざわざ俺を見送りに出てくれて、
「……色々あるだろうが、友好的な関係でいたい。何かあれば、頼み事をするかもしれないが、その時はよろしくお願いする」
と言ってきた。
なんと答えたものか迷ったが、最終的に、
「友好的でいたいのは私も同じです。頼み事は……あまり無茶すぎるものでなければ、可能な限り検討はしたいと思います」
という何も保証しない無難なものにしておいた。
エヴァルーク伯爵はその意図を理解したのか笑っていたが、特に問題なく送り出してくれたのだった。
******
「やっぱり高いな……この世界の魔導具は」
魔導具品店により、注文の品を受け取った後、俺はブツブツそんな独り言を言いながら歩いていた。
どういう品かというと、小さな炎が出るだけ、というほぼライターでしかないのだが、魔力を注げば無尽蔵に使えるらしいというところに驚いた。
地球にも魔導具はあるし、職人もいるのだが、さすがに無尽蔵に使えるというものはない。
どこにその違いが出るのか、その辺りも分解するか何かして調べたいと思っての奮発だった。
いや、いきなり分解すると戻せなくなりそうだし、まずは魔力の動きから調べるか……?
そんなことを考えながら宿へ歩いていると、
「……お、ハジメじゃねーか。何ニヤニヤしてんだ?」
と声がかかる。
声の方向に視線を向けるとそこには筋骨隆々の大男が立っていた。
人懐っこい笑みを浮かべており、いいおっさんという感じである。
「……ゴズラグ。あんただって似たような表情だろ? 何してるんだ?」
俺がそう尋ねると、ゴズラグは、
「いや、今スラムから戻ってきたところでよ。炊き出しが今日は多めに供給出来たから……これから飲みにでも行こうと思ってな。そうだ、ハジメもどうだ? いい酒場があるんだよ……」
そう言ってくる。
初対面ではお互いあれだけ印象が悪かった俺たちだが、今となっては特にわだかまりも何もない。
そもそも、ゴズラグはあの時変だった、と今の俺なら間違いなく言える。
普通に接する限り、気のいいおっさん以外の何者でもないからだ。
しかもスラムでの炊き出しなんて、大抵の冒険者はしないような慈善事業までやってる。
そんなおっさんの誘いを、断る理由など特になかった。
ミリアとエリザも今日は遅くなるだろうしな。
だから俺は言った。
「あぁ、構わないぞ」
地球では飲酒できない年齢ではあるけれども、この世界じゃ誰も気にしない。
そもそも、今でも日本の法律では二十歳未満だと飲めないが、冒険者の肉体の強化具合からして、少々のアルコールが有害に働くことはないという研究結果も大量に出ているのだ。
だから科学的に言っても、俺が飲んでも別にいいだろう……。
「よっしゃ、こっちだぜ、ハジメ。ちょっと路地裏の分かりにくいところにあるんだよな……あっ、別にそこでボコろうとか考えてないぞ?」
「分かってるよ……」
そんなことを話しながら、俺たちは歩いていく。
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