第569話 支配
「ご主人って」
その呼ばれ方はなんかゾワっとするな。
しかし蜂の《蟲族》は言った。
「だって君の名前知らないからね。他に読んで欲しい呼び方があるなら、変えるけど?」
「言われてみると名乗ってなかったな。お前の名前も知らない」
「あぁ、そうだね。僕の名前は……そうだ、名前つけてよ」
急に思いついたように言った蜂の《蟲族》。
「なんでだよ。今名乗ろうとしたろ? 名前あるんじゃないか」
そもそも他の《蟲族》のこともしっかりと名前で呼んでいたからな。
名付けられるまで名前がない、みたいなタイプの存在ではないと推測できる。
しかし蜂の《蟲族》は言うのだ。
「僕は結局、今、《蟲族》を裏切っているわけだしね。《蟲族》として与えられた名前をそのまま使うのは何か忍びないじゃないか。だからね」
「まぁ……分からんでもないが」
「あっ、名前知ってるかどうかとかで契約の効果が変わる、みたいなことはないから安心してね」
「それは分かる。魔力で繋がっているのか、今のお前にはいかなる指示も聞かせられると直感的に感じる」
それは強力な命令権のようなもののようで、それこそ死ねと言ったらその場で死ぬだろうというのが分かるのだ。
これが《原契約》というやつの効果なのか。
だとすれば恐ろしいことこの上ない。
「で、つけてくれる? 名前」
「まぁ……別にいいか。あぁ、そうそう。俺の名前は天沢創だ。天沢でも創でも好きに呼んでくれ」
「分かったよ、創!」
「じゃあ……名前か。うーん……安直なのでもいいか?」
「安直?」
「あぁ。正直、蜂子とかにしたい……」
「蜂子……いや、いいけど安直に過ぎない?」
「じゃあワスプだ」
「それはどこが安直?」
「英語で蜂の事だった気がする……あれ、でもビーとの違いってなんだろ?」
「……ワスプね。まぁ、蜂子よりはいいか。じゃあ、僕はワスプってことで」
「あぁ、よろしく。ワスプ」
というわけですんなり決まる。
それから、ワスプは言う。
「おっと、そうだった。まぁ、これは出来ればでいいんだけど……」
「なんだ?」
「僕の体、回収してくれないかな? あの辺に落ちたと思うんだけど。戦場から微妙に外れてるし、まだ無傷じゃないかなって」
「回収してどうするんだ?」
「首とくっつけてもらえれば、動けるよ。あっ、その前に体の方にも魔力流してくれる? 多分そうしなくても大丈夫だとは思うけど、《蟲王》の支配から外れない可能性もあってさ」
「何を聞いてもとんでもない生命力してるな……首落とされてもくっつけば治るのか」
「治らない奴もいるけどね。僕は治る方」
「わかった。回収しよう……っていうか、気になってたけど《蟲王》ってなんだ?」
名前からなんとなく推測できなくもないが……。
ワスプは俺の質問に答える。
「僕たち《蟲族》の王様だね。《蟲族》はみんな、やつの命令からは逃れられない。拒否しようとしても、無理やり従わされるのさ……」
「だからワスプは別に蜥蜴人と戦いたいわけじゃないみたいなこと言ってたわけか」
「そういうこと。だから君には感謝してるよ、創。情報もいくらでも流すさ。出来れば他に僕みたいなのがいたら解放して欲しいところだけど」
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