第568話 契約

「あ、う、うん……なんだか僕もさっさと契約してしまった方が安全な気がしてきたから……ええと、魔力出せる? オリジンなんだから行けるよね。で、出したら僕の傷口から僕の中に魔力を注いでくれれば良いよ。僕の中全体が君の魔力で満たされたら、《契約》と念じるんだ。どんな条件にするかとかも一緒にね。それで成立するよ」


 俺の様子に色々と危機感を感じたのか、蜂の《蟲族》は一気呵成にそう言ってきた。

 聞くとやり方は簡単だな。

 しかしそんなので本当に成立するのか?


「どうやって《契約》が成立したって確認する? そもそもなんか簡単すぎないか?」


 そう尋ねると、蜂の《蟲族》は言う。


「オリジンが魔力を使ってする《契約》は《原契約》だからね。単なる口約束とか文書での契約とは話が全く違うのさ。なんて言うんだろう……こう、呪いに近い、感じかな? あぁ、この場合、縛られるのは僕だけだから心配は要らないよ。まぁ君も何か義務を負いたいならそれを負うことは出来るけど、やらないでしょう?」


「最低限のお前の安全くらいは保障しても良いが」


「また随分とお優しいね」


「皮肉を言うな。契約するんなら、これからは表面上だけにしろ、仲間なんだ。だからな……」


「これはこれは。本気で言っているね……君なら心からついていっても良さそうな気がするよ」


「心からついてくるきは、今までなかったのか?」


「うーん、出来ればどっかで自由になれないかなぁとか思ってたけど……君はそこまで僕の自由を奪いそうにないからさ」


「自由ってのが人を殺す自由とかだったら認められないぞ」


 ある程度好きに行動する自由って言うならまぁ、別に良いかという気はするが。


「僕も好きで蜥蜴人を殺してるわけじゃないしね」


「ん? どういう意味だ」


「元々、僕たちは契約に縛られているということさ……ま、今はこれ以上は言えない。それよりも先に契約を」


「……まぁ分かった。おっと、どうやって契約が成立したか確認するか聞いてないぞ」


「あぁ、それなんだけど《ステータスプレート》ある? あるんだ。じゃあそれで確認できるよ」


「お前それも知ってるのか……しかし《ステータスプレート》ね。それなら信用しても良さそうだな。じゃあ早速やるぞ」


 《ステータスプレート》が嘘をついたことは今まで一度もない。

 世界中で隠し子騒動が起きてしまう程度には個人情報を丸裸にする存在だからだ。

 本人が全く知らなかった血縁関係まで記載してしまうほどだしな。

 そこに契約について描かれるというのなら、大丈夫だろう。多分。


「よろしくね……おっ、魔力が入ってきた……うーん、心地良い魔力だね。《蟲王》とは全く違う……」


 蜂の《蟲族》がそう呟く。

 色々と聞きたくなる単語だが、契約成立後の方がいいだろう。

 そして俺の魔力で蜂の《蟲族》の頭部が満たされると、ふっと何かが繋がった感覚が走った。

 弱い雷撃を流されたような、少し痛いが気持ちいいような不思議な感覚。

 そして……。


「……よし、《契約》は成った。これからよろしく頼むね、ご主人」


 蜂の《蟲族》はそう言ったのだった。

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