第266話 木人形
「……こりゃ、凄いな。これが補助魔術の力か……!」
ミリアの補助魔術がかかった状態で体を動かすと、通常状態との違いがすぐに分かった。
かけられた直後の体の軽さは勿論そのままだが、実際に動いてみれば違和感が出るだろうと思っていたのだ。
考えてもみてほしい。
いきなり普通の状態の時の、何割増の力を与えられたとして、人はすぐに動けるものだろうか。
大きすぎる力に振り回されたり、力を入れすぎて何か問題を起こしてしまったりするだろうと容易に想像がつく。
けれどこの補助魔術は違った。
むしろ、この状態が自然であったかのように体を動かせるのだ。
「誰が使ってもこんな感じになれるのか?」
俺が尋ねると、エリザが首を横に振った。
「いや、それは術者の技量によるからな……ミリアはいい補助魔術師だよ。下手なのに当たると、それこそ力に振り回されるような感じになることもある」
「やっぱりか……しかし、技量か。一体どの辺で違いが出るんだろうな……」
基本的に、補助魔術の掛け方は、《陣》に魔力を通すという方法になる。
そこに大きな違いが出る様には思えないのだが……。
そう思っていると、ミリアが言う。
「補助魔術は、ちょっと他の魔術とは毛色が違いますからね……それに、魔術は《陣》に魔力を通して発動させた後も、コントロールすることが出来ます。火球の魔術とか放ってからその進行方向をいじったりするの見たことあるでしょう?」
「あぁ、確かにな。補助魔術の場合は……」
「かけられた人がしっかり適応出来るようにコントロールするんですが……これはやってみないとなんとも言えないところですね」
「そういうものか……まぁ、いい。ちょっと戦ってみていいかな? どんな動きになれるかも、分かってきた」
「もちろんです。じゃあ適当な魔物を探しましょうか」
「おう」
******
「……いたぞ。あれは、
エリザが少し先にいる魔物に視線を向けながらそういった。
そこには、一メートルくらいの大きさの、木製の人形が奇妙な動きをしながら動いている。
人形と言っても、完全に人型をしているというより、歪というか……あまり綺麗な形をしてないな。
人形系は高位のものになるにつれ、人間へと姿が近づいていくと言われているので、最下級の魔物だろうあれがあんなものなのは納得だが。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけて行けよ」
「応援してます!」
エリザとミリアの声援を後ろに、俺は走り出す。
試し切り、と言っても別に正々堂々と余裕を持って戦おう、とかは考えていない。
とりあえず、奇襲をかけて優位な状態で戦うつもりだった。
しかし、身体強化によって俺の体は思った以上に素早く木人形との距離を詰めることが出来てしまった。
身体感覚的には何も違和感はないが、いつもの感じだと意識してると、ちょっと危ないかもしれないな。
そして俺は剣を振りかぶる。
木人形は全く俺の存在に気づかずに、その場で妙な動きをしていて、なんだか申し訳ない気分になってくるが、これも弱肉強食というものだ。
剣を振り下ろし、真っ二つにすると、胸の辺りにあった核が見えた。
間髪入れず、そこに突きを入れると、ぱりん、とガラスのように割れて、木人形はゆっくりと傾いで、地面に倒れた。
「……ちょっと余裕すぎるな」
俺がそう言った後に、ミリアとエリザが近づいてくる。
「相変わらず凄い実力だな。木人形では相手にもならなかったか……」
「補助魔術が必要だったか疑問ですけど……いえ、ちょうどいい練習にはなったでしょうから、無駄ではないのでしょうが」
二人がそんなことを言ってくる。
「まぁもう少し強いのとやってみたくはあるな……魔力はまだ余裕があるのか?」
ミリアに尋ねると、
「ええ、補助魔術は消費が少ない方ですからね。次行きますか?」
そう言ったので、俺は頷いたのだった。
******
後書きというか注意書きです。
これ昨日読んだ!
と思った方は、申し訳ないのですが、前話に戻っていただければと……。
昨日間違って一話飛ばして更新してしまったので、順番入れ替えてます。
申し訳ないですがよろしくお願いします……。
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