第69話 雹菜の家
「……あぁ、楽しみだなぁ。私、雹菜さんに会ったら色々聞きたいことあったんだよね!」
美佳が地上でそんなことを言う。
今、俺たちは雹菜の自宅に向かって歩いているところだった。
先日の迷宮探索は、《ゴブリン
強力過ぎるボスとの戦いを終えて、全員が疲労困憊の状態にあったのは間違いないはずだが、それにも関わらず楽に帰れたのは、やはりステータスの向上のお陰なのは言うまでもなかった。
それに加え、慎はアーツとして認められた例の技、《柴田流穿牙》を新しく手に入れたおもちゃの如く、使いまくった。
《ゴブリン
そして、スキルとアーツの使い心地の違いを知りたかったので色々尋ねてみると、どうもアーツの方が自由度が高い感じがするようだった。
スキルの《剣穿》を使うと、一定の動きを強要されているような感覚が強い、ということだが、アーツは出るタイミングや強さなどを自分の任意にカスタマイズできるような感覚なのだという。
なるほど、と思った。
俺の場合は全てを自ら構築する感じなので、理解できる。
ただ俺のは本当に何もかも自分でやってるので、カスタマイズというより創造のような感覚なのだが、それこそが、アーツというもののスキルとの違い、なのかもしれなかった。
「聞きたいことってなんだよ?」
慎が美佳に尋ねる。
「色々あるわよ。B級冒険者になるにはどんな風に頑張ればいいのか、とか、雹菜さんの強さとか、ステータス……は聞いていいのかどうかわからないけど、仲良くなれそうなら聞いてみようかなぁ。あと、私結構、雹菜さんの載ってる雑誌とか買うんだけど、撮影どんな感じなんですかとか」
「撮影?」
俺が首を傾げると、美佳が呆れた顔で、
「創だってコンビニくらいいくでしょうに……」
と言われ、それに続いて慎が、
「こいつは冒険者系の雑誌とかばかり見てる堅物だからな。雹菜さんはどっちかというと、アイドル系の雑誌とか、ファッション誌とかに載ってるから」
「堅物って。俺だって高校生なりの諸々はあるんだからな……とはいえ、ここ一、二年は確かにそういう雑誌には視線がいかないな……まぁ、俺ってほら、スキルゼロだったからさ。なんかヒントがあるんじゃないかって、冒険者系のばかり……」
「ま、気持ちは分かるよ。でも冒険者系の雑誌にも出てたことはあったと思うけど……」
「別にそういう雑誌ばかり見てたわけじゃないというか、基本的には教科書とかギルド発行の概説書とかの方が多かったからな。それに学生なんだから金がない。コンビニで立ち読みするのも気が引けるし、学校の図書館には雑誌系ほとんどないしな」
「なるほど。まぁ、そもそも雹菜さんが載ってるようなのはすぐに売り切れてたしな。目に入らなくてもおかしくはないか」
「なんでそれでお前はよく知ってるんだ」
「俺はダッシュで買いに行ったことが何回かあるから……」
「……ファンだったのか?」
「いや? 学校で見たい奴が多かったから、手に入れとくと交換条件として役に立つことが多かったんだよ」
「お前……闇商人か何かか?」
「人聞きの悪いことを言うなよ……別に転売屋やってたわけじゃないんだから……って、おい、創、美佳。この住所の場所って、あそこじゃないか……?」
慎が目を見開いて、前方を見た。
先ほどまではビル群の影に隠れていて見えなかったが、今ではそこに屹立するタワーマンションの姿がありありと見える。
デカい。
「……すごいな。あそこまでとは思ってなかった……」
俺がそういうと、美佳が、
「やっぱりB級冒険者ともなれば、お金持ちなんだね……夢が広がる!」
「目指すつもりなんだな……って、まぁ美佳の才能なら普通に辿り着ける可能性のある目標だろうが。俺はどうしたもんかな」
「創だって、目指せるでしょ? 少なくとも今、接近戦をしたら私、創に勝てる気がしないよ」
「いきなり術撃たれたらそれで詰む可能性が高いが。面制圧出来るだろお前……」
「流石に幼馴染を焼き殺すのは気がひけるから、そんなことしないわよ……」
物騒な会話をしつつ、俺たちはマンションの麓までたどり着く。
中に入り、事前に聞いていた部屋番号を入力してから、入口のインターフォンを押すと、
『はい、どちら様……って、三人とも来たのね! 今開けるから』
そう言って何かガチャガチャやる音が聞こえてから、マンションの扉が開いたのだった。
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