第47話 他人のステータス

 登校すると、正門あたりからすでに空気が違った。

 いや、もっと正確に言うなら、通学路の時点でだな。

 なぜかと言えば、その理由は当然ただ一つだ。


「……おっ、創! 来たか!」


 教室に入ると同時に、そう言って笑顔で俺の方に駆け寄ってきたのは、俺の幼馴染の慎だ。

 その手には例の《ステータスプレート》が握られていて、俺に見せてくる。


「どうだ!」


「いや、待て、慎。そいつは個人情報だ。あんまり他人に見せるのはまずい……」


「って言ってもなぁ。俺、自分のスキルとかほぼ全部今までお前に言ってるだろ? 隠すことがさほどないんだよな」


「……言われてみると、それはそうだな。いやでも、医療的な数値とか、本籍地とかも表示されるじゃないか」


「それだって別に……健康診断で数値見せあったりしたろ。本籍地は正直どうでもいいというか、我が家は適当なのかどこだよそれってところになってるし。住所は普通に知ってるだろうが」


「……あー……」


 言われて、納得してしまった。

 まぁ、確かに普通に生活している分には、隠さなければならない情報はそれほど多くない。

 幼馴染で親友の間柄とまでなっていれば特に。

 それでも俺が見せるべきではない、と思うのは、俺自身が隠し事を抱えているからだろう。

 後ろ暗い人間というのは、こうやって人との繋がりを絶っていくのだろうな、という悲しい心境を理解した。

 そんな俺の表情を理解したのか、


「……お前、もしかして何か見せたくないこととかあんのか?」


「いや……」


 なんと言っていいものか、迷った。

 別に見せたくない、というわけではない。

 見せると多分、見せた相手も危険になるような情報かもしれないから、今は言いたくない。

 それだけの話だ。

 だから、慎になら、と思わなくはない。

 それでも、自分のせいで友人を危険な立場に置くのは……。

 そんな葛藤を抱えていることを、長年の付き合いである慎はすぐに理解したのか、


「おっと、そういうことなら無理に見せろなんて言わないぜ」


「……いいのか? お前は気軽に見せてくれようとしたのに」


「かまわないさ。それに、まぁなんていうか……結構、学校内でもすでに《ステータスプレート》の内容がらみで問題が起こっててな……見せられないって言っても、みんな察する空気になってきてる」


「そうなのか……それってつまり、テレビで言ってたみたいな?」


「おぉ、お前も朝のニュース番組くらいは見るか。そうそう、戸籍に記載されてる内容とかがな。本当の子供じゃなかった、みたいなのが……まぁ」


「……そりゃ、大変だな……」


「おう、親に尋ねるかどうか悩んでたりとか、まぁまぁきついところあるぜ。それに、養子じゃなくて、実子扱いだったのに血の繋がりがなかった、とかまで分かるもんだから……」


「そっちの方が地獄か」


「そういうこった……ん、でもそうなると、まさかお前ん家もそういう……?」


「いやいやいや、うちは大丈夫だったよ。うちの母さん、浮気するようなタイプじゃないしな」


「確かに、あの人ならそんなことするくらいならさっさと離婚しそうだな」


「そういうこと」


「じゃあ、なんで……ってこれ以上詰めるのは良くないな。もうこの話は終わりにしておくぜ」


「悪いな……でも、そのうち多分言える時が来ると思う」


「そうなのか?」


「あぁ。だから今のところはな」


「分かったよ。で、俺の《ステータスプレート》なんだけど……」


「見せてくれるのか?」


「さっきも言ったように、隠すことなんてないからな。ほれ」


 そう言って慎は俺に《ステータスプレート》を手渡す。

 これの面白いところは、こうやって他人に直接ものとして手渡すことが出来ることだろう。

 ただ、他人がずっと所持し続けていられる、というわけではなく、出した本人が消そうと思えばすぐに消せる。

 そういうところはしっかり守ってくれるんだな、となんだか妙な感じだ。

 家族関係をぶっ壊す相当な情報モリモリなのに、と思うが、それも含めて、自分の情報は全て自分で管理できるように、という配慮なのかな?

 分からない。

 ともかく、慎のステータスを確認していく。


 名前:柴田 慎

 年齢:18

 称号:《冒険者見習い》……

 腕力:35

 魔力:28

 耐久力:27

 敏捷:32

 器用:33

 精神力:31

 保有スキル:《最下級身体強化》《腕力強化2》《脚力強化2》《耐久力強化2》《最下級剣術》《下級剣術》《最下級槍術》《最下級弓術》……

 保有アーツ:無し


 ……流石に色々一緒にスキルを取るべく訓練しただけあって、慎のスキルの数は群を抜いていた。

 どれもまだ、学生の身分であるため、中級以上には至ってはいないが、それでもこれだけの数のスキルを身につけている存在は稀だろう。

 万能型、というだけある。

 加えて、ステータスの数字もどれも突出することなく、平均的に高い。

 俺の場合、器用と精神力だけ異様に高かったが、これを見ると魔力も俺は高い方ではあるのかもしれない。

 慎はこのクラスでもかなり実力者の方になるから、それでこの数値ということは、俺の器用と精神力は異常だということになる。

 他にも比較対象が欲しいところだが……。


「あっ、慎に創!」


 ガラリ、と教室の扉が開いて、そこから現れると同時にそう叫んだのは、美佳だった。

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