第152話 分け方
「で、あとは……」
残りの品々を、収納袋から次々に取り出して、布の上に置いていく。
それらをそれぞれで確認すると……。
「回復薬に、状態異常治療薬……あと、あのドラゴンゾンビの素材か。骨ばかりだけど、砕いたりすれば色々使えそうだ。牙も武器に加工できそう。この辺りは予想しやすいドロップ品だね」
樹がまずそう言った。
これはその通りで、大体ボスモンスターというのは回復薬をまず、ドロップする。
これは迷宮の慈悲とか恵みとか茶化して言ったりするが、やはりボスと戦って満身創痍になった冒険者にとっては非常にありがたい品で、これらのお陰で命拾いした、という者も少なくない、本当に助かるドロップ品だ。
状態異常治療薬も、今回のボスは毒ブレスを放つドラゴンゾンビだったから順当だな。
「あぁ、だけど……こっちは珍しいもんだよな。まぁ、俺には必要ないものだが……お前らはどうだ?」
俺がそう言った相手は、樹ではなくカズと巧だ。
その理由は簡単で……。
「……盾と、鎧か。どっちも重戦士用のもんだよな、これ。種類はちょっと違う感じだが」
カズがそう言った。
そう、そこにあったのは盾と鎧である。
盾の方はどことなく禍々しい雰囲気の、黒色のもので、鎧の方は骨で形作られたようなものだった。
どちらもなんとなくデザインは邪悪な感じがするが、呪われてそうな雰囲気はない。
まぁ、それでもいきなり使うのはよした方がいいだろうが……。
ちなみになんで俺がいらないかと言えば、盾の方はかなり大きなタワーシールドで、基本的に両手で剣を持って戦うことが多い俺にとっては微妙だし、鎧も全身を覆うもので、速度を重視する俺には例え防御力が高かろうと、あまり使おうとは思えないものだからだ。
ギルドメンバーにはどうか、と少し考えてみるが、女子二人は当然使わないだろうし、慎も戦い方は俺とかなり近く、重量が極端に増えることは嫌うだろうから、やはり使わない。
樹も軽戦士風の装備だし、まぁ使わないと思ったのであえて聞きはしなかった。
実際、カズと巧が欲しそうな顔をしているのに対して、樹は特に文句はなさそうだ。
それに、
「使うなら、まずは武具鑑定出来るところに持って行った方がいいだろうね。伝手がなければ僕が紹介できるよ? もし欲しければだけど……」
この欲しければ、は伝手の紹介もそうだが、この防具二つについてにも言っているのだろう。
それを理解したカズは、俺たちを見ながら、
「いや、俺たちは欲しいよ。だが、これは多分、今回のドロップ品の中で最も価値があるぞ。金銭的にいくらになるかは鑑定で大雑把にわかるだろうが、オークションに出せばさらに上がるだろうし、俺たちに払い切れるような額じゃ……」
「俺もそう思う。ここは残念だが諦めて、売却して山分けってのがいいんじゃないか?」
巧もカズに続けてそう言った。
だが、俺としては……。
「武具関係については、安易に金にするべきじゃない。使えるもの、使いたいものは使った方がいい。これは、うちのギルドリーダーの受け売りだけど」
雹菜はドロップ品の重要性をよく知っていて、俺たちギルドメンバーにもかなりしつこくそう言っていた。
細かく聞いていけば、軽い気持ちでうっぱらった品が、後々特別な効果がついていることが判明して地団駄を踏んだ経験があっての、半分は悔しさが占めているようだったが……実際問題、迷宮品というのは金を払ったからといって手に入るとは限らない。
手に入れられるタイミングがあるなら、決して遠慮すべきではない。
「だが、金がよ……」
カズはそう言うが、
「それは気にしなくていいさ。パーティーで倒した魔物から得た品なんだ。俺たちで取り分を決める分には、自由だろ。特段、正確に四等分しろ、とか言うつもりはないし……樹は?」
「僕もそれでいいよ。二人はその盾と鎧をとる。僕たちはその他の品、そんな感じで」
信用できない相手とこういうどんぶり勘定をすると後で問題になるが、このメンバーならまぁいいだろう、という感覚があったからこその台詞だった。
そんな俺たちに、カズと巧は、申し訳なさそうな表情をしたが、すぐに前向きな顔になって、
「……そういうことなら、ありがたく貰っておくぜ。俺は、盾を」
「じゃあ、俺は鎧だな……いや、助かったぜ。流石にいま着てる鎧、今回の戦いでもうダメだろうと思ってたからな」
俺たちが助けた時、巧は結構、鎧にもダメージを負っていた風だったからな。
騙し騙しやってこれたが、迷宮を出たら流石にもう一度使うのはよした方がいいと感じられるくらいには。
だからその話を聞いて、だったら本当にちょうどいいドロップ品だったのだな、と思った俺たちだった。
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